第1章ー8
「聖なる守護神よ。絶対の防御を誇る御身の防壁で、親愛なる者たちを守りたまえ。【絶防結界】」
戦いが始まる前に、俺は半径百メートル規模の防衛結界を張った。
守るのは自分の身ではない。サダメとステラ、そして村そのものだ。
俺が本気で戦えば、周囲にも被害が及ぶ。今は二次災害を抑えることが最優先だった。
――だが、悠長に構えてはいられない。
迅速に奴を倒し、他の場所へ援護に向かわなければならない。
この村は魔物も滅多に現れない平和な土地だ。
護衛はいるが、ほとんどが戦闘経験の浅い冒険者を安い報酬で雇っているに過ぎない。
この異常事態に対処できるはずがない。
だからこそ、俺が動くしかない。
「『さて、準備はもうよろしいのですか?』」
「……随分と悠長だな」
「『ええ。最初に仕掛けたのは私ですから。今度はそちらからどうぞ』」
まず倒すべきは、目の前の敵。
――エイシャと名乗る魔王軍幹部。
奴が現れた瞬間、俺はその魔力を一切感知できなかった。
だが今は、肌が粟立つほど禍々しく強大な魔力を放っている。
一体どういう理屈だ。
エイシャは完全にこちらを見下し、言葉すら遊び半分のように返してくる。
「なら、遠慮はしない」
「『全然構いませ――』」
言葉の途中だった。
その隙を逃さず、俺は既に剣を振り抜いていた。狙いは首。
「くっ!?」
「『ふん』」
――だが、手応えはない。
斬り落としたはずの頭は紙片のように宙へ舞い、次の瞬間、何事もなかったかのように胴へ戻る。
やはり、ただ斬るだけでは倒せないか。
「なら――」
「ッ!?」
近接攻撃は無意味と判断し、脱兎跳躍で間合いを取る。
「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前の標的に猛る一投を放て――【火球】!」
剣を突き出し、詠唱と共に魔法を解き放つ。
結界の関係で大きく距離は取れない。詠唱ありで八割の威力が限界。
だが、この結界から奴は逃げられない。
「『ふっ』」
「ッ!?」
火球は直撃した――ように見えた。
だが、炎はエイシャの身体を貫通し、背後の結界へ衝突して爆散する。
奴の胴には、風穴のような空洞が開いていた。
――当たる直前、自ら身体を空洞化させたのか。
「『残念。この程度の魔法なら、避けるまでもありませんね』」
穴の開いた身体は即座に元へ戻る。
自在に肉体を変形する魔物――スライム系統でしか見たことがない。
だが、奴はどう見てもそれには見えない。
それでも、気になる点はいくつもある。
まず、どうやってこの村へ侵入したのか。
この規模の魔力を感知できないはずがない。しかも複数だ。
魔族は人間より魔力量が高く、質も異なる。
未熟な冒険者でも気づかないはずがないし、仮にそうでも俺が先に察知している。
――だが今回は、俺ですら気づけなかった。
魔力感知は得意な方だ。条件が良ければ半径一キロまで探知できる。
騎士団にいた頃ほどの感覚は戻らないが、それでも鈍ってはいない。
現に、以前この村の近くに現れた【赤火猪】の群れも即座に察知し、冒険者達と討伐した。
討伐後は村総出で猪鍋を囲んだものだ。
――今はその思い出に浸る時ではない。
これほどの魔力を隠す方法。
それも奴の能力なのか。
「『どうしました? もう打つ手は尽きましたか?』」
「くっ……!」
挑発が飛ぶ。
考えても答えは出ない。今は時間がない。
サダメもステラも、村の人々も危険に晒されている。
悠長に思考するより、攻めながら弱点を探るしかない。
俺は剣に宿る炎の出力を引き上げる。
――考えるな。動け。
「行くぞ!」




