表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
1章 転生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/686

第1章ー7

 「お父さん!?」


 「ッッッッッ!!!!!?」


 宙を舞っていた父の右手が地面へ落ちる瞬間を目撃した。父は失った腕を押さえ、膝をついて崩れ落ちる。何が起こったのかは理解できない。ただ――これは確実に、まずい状況だと本能が告げていた。


 「『これは失礼。貴方が急に攻撃態勢に入ったものだから、無意識に防衛反応が働いてしまったようですね』」


 父が跪く中、ローブを纏った人影が口を開く。女の声だろうか。どこか機械音の混じる、不自然に澄んだ声だった。


 「『しかし、手を切断されて悲鳴を上げないとは少々驚きました。それとも、激痛で声が出ないのでしょうか?』」


 「……」


 愉快そうに語りかけるローブの女。しかし父は声を出せる状態ではない。自分ですら恐怖で声が出ないのだから、当然だ。痛みと恐怖で、思考すらまともに働かない。


 「『おっと、まだ名を名乗っていませんでしたね。私は魔王軍幹部【十死怪】の一人、エイシャと申します。以後、お見知りおきを――もっとも、もう貴方と話す機会はないでしょうが』」


 「……」


 父の状況など意にも介せず、淡々と自己紹介を続ける。

 十死怪――どこかで聞いたことがある。

 いや、それより――今、魔王軍幹部と言ったか?


 「……よ」


 「『ん?』」


 エイシャが話し終えた直後、父がようやく口を開く。だが、掠れた声は聞き取れない。


 「……鉄より硬き……つるぎとなり、我が元に……顕現せよ!」


 「ッ!?」


 「【業火剣ヘルファード】!!」


 反応が遅れたエイシャの身体を、業火剣の一閃が捉えた。


 ――右手を失い、激痛の中にありながら。

 父は一切の悲鳴も上げず、詠唱を成し遂げていた。


 「『ふむ。この状況で反撃とは……相当の手練れと見ました』」


 「ッ!?」


 だが、斬られたはずのエイシャは平然と会話を続けていた。

 切り裂かれた上半身は紙切れのように宙に散り、数秒後、何事もなかったかのように元へ戻っていく。


 ――どうなっている? この身体は……。


 「だが、まだ私に敵うレベルではありませんね」


 「くっ……」


 嘲るように言い捨てるエイシャ。

 父は何も言い返さない。いや、言い返せないのだ。相手の格が違う――それは自分にも理解できた。


 「あなた!?」


 「ッ!? ステラ!?」


 「お母さん!」


 「ッ!!?」


 外の異変に気づいたのか、母が駆け込んでくる。

 片腕を失った父の姿を見て、母は言葉を失った。――少し前の自分と同じ顔をしている。


 「サダメ。お母さんと一緒に、ここから逃げなさい」


 「えっ?」


 父は自分を犠牲にするつもりなのか――。


 「『逃げても無駄ですよ』」


 「何?」


 「『貴方なら、もう既に気づいているはずですが……』」


 「!? まさか……これは……」


 「くっ、魔障結界か」


 「『その通り』」


 「魔障……結界?」


 聞き慣れない単語。結界――閉じ込められたという意味か?


 「『魔障結界は、特定区域に大量の魔力を発生させる結界です。人間が一度に過剰な魔力を浴びれば、身体に異変をきたす』」


 敵から語られる説明を、ただ聞くしかない自分が歯がゆい。


 「『この結界は村の周囲を覆い、通常の空気の十倍以上の魔力で満ちています。人間には致命的な環境でしょう。もっとも、魔族である私達には無関係ですが』」


 「け、けど……壊せばいいじゃないか」


 「サダメ……」


 「『結界とは言っていますが、実態は半径一キロに及ぶ霧。村の内外へ流れ込み、近づくほど魔力濃度は高まる。人間が吸えば毒となり、過剰に吸えば死に至る。仮に魔法で払っても、霧はおのずと戻る。吸わずに一キロ進むなど、普通の人間には不可能ですよ』」


 「……」


 聞かなければよかった。

 霧は既に村へ流れ込んでいる。

 逃げ道はない。敵は目の前にいる。


 ――絶望しかなかった。


 「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」


 「!?」


 村のどこかから悲鳴が上がる。

 一人ではない。複数だ。


 「貴様、一体何を……!」


 「『ああ、きっと彼らが働いてくれているのでしょう』」


 「彼らだと!?」


 「『部下達に命じました。女子供は捕らえ、それ以外は殺せと』」


 「なん……だと!?」


 父から、今まで感じたことのない怒気が溢れ出す。


 だが、家の外から聞こえる断末魔の声に、足が震えて動かない。

 父は片腕を失い、目の前には魔王軍幹部。

 ――自分に何ができる?


 「何が目的なんだ、お前達は!?」


 「『目的ですか。拠点の拡大。そしてもう一つは【人魔】の生成と育成ですね。ああ、これでは三つになってしまいますか』」


 「なっ……人魔……!?」


 父の怒りがさらに膨れ上がる。

 背中越しでも分かる。今の父は――恐ろしいほどだ。


 「……人魔の生成。それは、妻や村の女性達を利用するという意味か?」


 「『もちろん』」


 「……そうか……」


 沈黙が数秒流れた。

 張り詰めた空気が、肌を刺す。


 「……サダメ。お母さんと一緒にいなさい。何かあったら、お前がお母さんを守れ」


 「ッ!? お父さん……?」


 その声は、あまりにも優しかった。

 だからこそ、胸がざわつく。


 ――嫌な予感が、確信へ変わる。


 「来い、怪物。貴様は必ず――俺が殺してやる!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ