第12章ー31
「なあ、アラガ」
「なんだ?」
アラガの話を聞き終えた自分は、どうしても聞いておきたいことを尋ねることにした。
もちろん、他にも気になることは山ほどある。
彼がこれまでどんな生活を送ってきたのか。母親を失った後、どんな気持ちで生きてきたのか。そして、魔王を倒すという目標を掲げるまでに、何があったのか。
聞きたいことを挙げれば、いくらでも出てくる。
けど、今はそれよりも、どうしても聞いておきたいことがあった。
「どうして、話してくれたんだ?」
「……」
「いや、まあ、俺から聞いたんだから、話してくれるのは当然かもしれないけどさ。そういうことじゃなくて」
自分から聞いておいて、いざ話してくれたら理由を尋ねる。
我ながら少し変な話だとは思う。
それでも、気になって仕方がなかった。
今まで、アラガ自身のことを聞く機会なんてほとんどなかった。
以前の彼なら、こんな話を聞こうとした時点で睨みつけられていたかもしれない。あるいは、くだらないことを聞くなと暴言を吐かれて、まともに取り合ってもらえなかった可能性だってある。
それくらい、自分に対するアラガの態度は冷たかった。
なのに、今回は違った。
あれほど辛い過去を、彼は自分の口から話してくれた。
母親を失ったことも。
勇者を憎むようになった理由も。
そして、自分が魔王を倒そうとしている理由も。
今まで誰にも話してこなかったのか、それとも単に自分に話す必要がなかっただけなのか。
その辺りは分からない。
ただ、少なくとも、今までのアラガだったら絶対に聞けなかった話だ。
だからこそ、なぜ今回だけ話してくれたのか。
それがどうしても気になっていた。
「……あの時、言っただろう。俺を知りたきゃ、俺に勝ってみろって」
「? あっ、もしかして……」
その答えを聞いた瞬間、ようやく思い出した。
そういえば、魔闘祭の時に、そんなことを言われたような気がする。
確か、アラガに勝てば、彼自身のことを教えてくれるという話だった。
……いや、まさか。
あの時の約束を、今も覚えていてくれたのか?
正直、すっかり忘れていた。
あの時のアラガは、自分に対して敵意を剥き出しにしていたし、あんなことを言ったのも、単に挑発するためだったと思っていた。
だから、あれは口から出まかせだとばかり思っていたのだ。
それなのに。
「理由はそれだけだ」
「……そっか」
あっさりとした答えだった。
けど、自分はなぜか、それだけで妙に嬉しくなってしまった。
約束を覚えていてくれたこと。
そして、その約束を果たすために、あんな辛い過去を話してくれたこと。
それが、どうしようもなく嬉しかった。
もちろん、アラガにとっては単に約束を守っただけなのかもしれない。
自分が勝ったから、話す。
それだけのことだ。
そこに特別な意味なんてないのかもしれない。
それでも……。
今まで、まともに会話すらできなかった相手が、自分のことを話してくれた。
しかも、他人に簡単に話せるような内容じゃない。
そんな話を聞かせてもらえたことに、自分は少しだけ特別なものを感じていた。
……なんだろうな。
別に、アラガが自分を信頼してくれたと決まったわけじゃない。
本人がどう思っているのかも分からない。
それでも、今までずっと敵対していた相手が、こうして自分の過去を語ってくれた。
それだけで、なんだか妙に居心地がよかった。
少しだけ、距離が縮まったような気がする。
……まあ、自分の勝手な思い込みかもしれないけど。
「……あっ、そうだ。魔眼の制御、良い方法思いついたんだけど」
「……は?」
そんなことを考えていた自分は、ふと思い出したことを口にした。
せっかくアラガと話せるようになったのだ。
なら、今のうちに少しでも役に立てることを考えてみてもいいだろう。
「魔眼って、相当な魔力量になるんだろ? つまり、かなりの魔力を消費しないといけないわけだ。それなら……」
「……」
突然話題を変えたせいか、アラガは目を丸くしていた。
まあ、無理もない。
さっきまで母親の話をしていたのに、いきなり魔眼の制御について話し始めたのだから。
それでも、彼は何も言わず、静かに自分の話に耳を傾けていた。
……よし。
少なくとも、話を聞いてくれる気はあるらしい。
だったら、ここからが本題だ。
魔眼を制御するために、どうすればいいのか。
今までの訓練を思い返しながら、自分は自分なりに考えた方法を説明していく。
もちろん、まだ思いついたばかりの案だ。
これで本当に上手くいくかどうかは分からない。
それでも、何もしないよりはマシだろう。
アラガの魔眼は、使いこなせれば相当な力になるはずだ。
だからこそ、少しでも負担を減らす方法を見つけたい。
「……なるほどな」
しばらく話を聞いていたアラガが、ぽつりと呟いた。
その反応を見て、自分は少しだけ期待してしまう。
もしかしたら、今の考えは案外悪くないのかもしれない。
……いや、まだ分からないけど。
それから自分たちは、魔眼の制御についてしばらく話し込んだ。
途中で何度か意見が食い違ったり、自分の説明がうまく伝わらなかったりもしたが、それでも以前のように一方的に拒絶されることはなかった。
アラガも、自分なりに考えながら話を聞いてくれていた。
そんなやり取りを続けているうちに、気がつけば、すっかり時間が経っていた。
……もう、こんな時間か。
今日は本当に忙しない一日だった。
補習の訓練で体力を使い果たしたと思ったら、アラガの過去を聞かされて、気がつけば魔眼の制御について話し合っている。
正直、頭も身体も疲れた。
それでも。
「……」
今日一日を振り返ると、少しだけ嬉しい気持ちになった。
アラガの過去を知ることができた。
彼が勇者を憎む理由も、魔王を倒そうとする理由も、以前よりずっと理解できた。
そして何より、今までまともに話すことすらできなかった相手と、こうして一緒に考え、話し合うことができた。
それだけでも、今日の訓練には意味があったと思う。
もちろん、アラガとの距離が縮まったと断言できるわけじゃない。
明日になれば、またいつものように冷たい態度を取られるかもしれない。
それでも、今日のことは、きっと無駄じゃない。
少しずつでも、彼のことを知っていけたら。
いつか、今よりも気軽に話せるようになれたら。
……まあ、焦る必要はないか。
これからも、少しずつだ。
そう思いながら、自分は今日一日を終えた。
忙しない一日だったけど、アラガとの距離を、ほんの少しだけ縮められた気がした。
――転生勇者が死ぬまで、残り3872日




