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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
12章 魔界大戦編~開戦~

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第12章ー28

 「……え?」


 ……二人の母?


 今、アラガは確かにそう言った。


 聞き間違いではない。彼は視線を落としたまま、静かにそう告げたのだ。


 魔王を倒したい理由を尋ねたはずなのに、返ってきたのは、まったく予想していなかった話だった。


 もちろん、その言葉が何を意味しているのか、今の自分には分からない。


 実の母親と育ての母親がいた、ということなのだろうか。


 けれど、今すぐ問い返す気にはなれなかった。


 アラガは、自分から話し始めてくれたのだ。


 普段の彼の態度を考えれば、それだけでも意外なことだった。こちらから尋ねたとはいえ、無理に話させようとしたわけではない。それでも彼は、口を閉ざすのではなく、自分の過去を語ろうとしている。


 ならば、今は黙って聞くべきだろう。


 「俺を産んだ母は、俺を産んだと同時に命を使い果たして死んだ。その後は、別の母が俺を育ててくれた。……といっても、奴に半ば強制的に命じられたようなものらしいけどな」


 「……奴?」


 アラガの話を聞いているうちに、ある疑問が浮かんだ。


 彼を産んだ母親は、出産と同時に命を落とした。そして、その後は別の女性が彼を育てたという。


 だが、今の話を聞く限り、その育ての母親は自分の意思でアラガを引き取ったわけではないらしい。


 誰かに命じられた。


 しかも、アラガ自身がその人物を「奴」と呼んでいる。


 ……もしかして。


 頭の中に、一人の人物が浮かび上がる。


 「グランドオーダーだ」


 「ッ!?」


 やはり、そうだった。


 アラガの口から出てきた名前に、思わず息を呑む。


 グランドオーダー。


 元十死怪の一人であり、かつて魔王軍の幹部として長年仕えていた存在。今は勇者によって倒され、すでにこの世にはいない。


 だが、生前の奴は魔王軍でも最強クラスの魔物だった。


 そんな存在が、アラガの出生に関わっていたというのか。


 ……いや、待て。


 そういえば、以前エイシャが言っていた。


 魔王軍の目的の一つは、人魔の生成。


 人間と魔物、その両者の性質を持つ存在を生み出すこと。


 そして、アラガの故郷は、かつてグランドオーダーが支配していたウルヴェドという土地だった。


 以前はソワレルにも匹敵するほど栄えていたらしいが、グランドオーダーの侵攻によって滅ぼされ、今ではその地名すら残っていない。


 ……そう考えると、いろいろと腑に落ちる。


 グランドオーダーがアラガを生み出し、魔王軍の戦力として利用しようとしていたのだとしたら。


 そして、そのために育ての母を用意したのだとしたら。


 少なくとも、今まで聞いた話から考えれば、そう推測するのが自然だった。


 「奴は俺を魔王軍の戦力にするために、俺を産み落とし、育ての母に教育させようとした」


 アラガは、淡々と話を続ける。


 「育ての母は、元々ただの町娘だった。だが、奴らからすれば、ガキの子守ができれば十分だったんだろう。……奴らじゃ、うっかり殺しかねないからな」


 「……」


 思わず、言葉を失った。


 魔王軍の戦力にするために生み出された子供。


 その子供を育てるために、何の関係もない町娘が選ばれた。


 しかも、本人の意思とは関係なく、半ば強制的に。


 ……なんて話だ。


 アラガの言葉から察するに、グランドオーダーにとって育ての母は、ただ子供を育てるためだけの存在だったのだろう。


 自分たちが育てれば、何かの拍子に殺してしまうかもしれない。


 だから、代わりに人間を使った。


 それだけの理由だったのかもしれない。


 ……いや、もしかしたら、もっと別の理由もあったのだろうか。


 今の自分には、そこまで分からない。


 ただ、少なくとも、アラガがどのような環境で育てられたのか、その一端は理解できた気がした。


 「……だが、それが母を苦しめた」


 「……え?」


 そんなことを考えていた矢先、アラガの口から、思いもよらない言葉が飛び出した。


 母を苦しめた。


 ……どういうことだ?


 育ての母は、アラガを育てるように命じられた。


 それだけなら、確かに不本意な境遇だったのかもしれない。けれど、それが彼女を苦しめたというのは、どういう意味なのだろうか。


 アラガは、相変わらず淡々と話している。


 その表情には、どこか哀愁のようなものが感じられた。


 ……いや。


 もしかしたら、自分がそう感じているだけなのかもしれない。


 彼はまだ、育ての母について詳しく語っていない。


 それなのに、何となく、これから聞く話が簡単なものではないと感じていた。


 「育ての母は、俺を殺そうとした」

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