第12章ー27
魔王を倒す。
言葉にするだけなら簡単だ。けれど、実際にそれを成し遂げようとするなら、並大抵の覚悟では足りないだろう。
ましてや、アラガはその目標を本気で追いかけているように見える。
なぜ、そこまでして魔王を倒そうとするのか。
何か、譲れない理由があるのだろうか。それとも、魔王に対して特別な感情を抱いているのだろうか。
これまで、彼の実力や魔眼について知る機会はあった。実際に戦う姿も見てきたし、その力がどれほど強大なものなのかも、身をもって理解しているつもりだ。
けれど、その力を何のために使おうとしているのか。彼自身が何を考え、何を思っているのかについては、ほとんど知らないままだった。
だからこそ、知りたかった。
ただ強い相手だから倒したい。そんな単純な理由だけで、魔王討伐を目指しているとは思えなかったからだ。
……いや、もしかしたら、本当にそれだけなのかもしれないけど。
何しろ、相手はあのアラガだ。自分の知らないところで、常識では考えられないようなことを考えていたとしても不思議ではない。
それでも、聞いてみなければ分からない。
少なくとも、今の自分はそう思っていた。
「……」
しかし、アラガは何も答えなかった。
再び、二人の間に沈黙が流れる。
……あれ?
もしかして、聞いてはいけないことだったのだろうか。
アラガは視線を落としたまま、口を開こうとしない。その表情からは、何を考えているのか読み取れなかった。
先ほどまでの訓練の疲れが残っているせいなのか。それとも、単純に答えるのが面倒なだけなのか。
いや……たぶん、違う。
自分でも理由は分からない。けれど、今の沈黙は、単に返答に困っているだけのものとは違う気がした。
魔王を倒す理由。
それは、本人にとって簡単に口にできるようなものではないのかもしれない。
だとしたら、少々踏み込みすぎてしまっただろうか。
せっかく会話が続いていたというのに、これでは台無しだ。仲良くなりたいからといって、何でもかんでも聞いていいわけではない。
自分だって、他人に話したくないことの一つや二つくらいある。
それなのに、相手の事情もよく知らないまま、いきなり踏み込んだ質問をしてしまった。今になって、少しばかり軽率だったかもしれないと反省する。
無理に聞き出すつもりはない。話したくないのなら、それ以上追及するべきでもないだろう。
「……悪い。言いたくないなら、別に――」
アラガに謝罪の言葉を口にしかけた、そのときだった。
「……俺には、二人の母がいた」
思いもよらない言葉に、自分の思考が一瞬止まった。




