第12章ー26
「……は?」
……ですよねー。
アラガから返ってきたのは、予想どおりというべきか、実に冷ややかな反応だった。
そりゃあ、そうだよな。別に仲がいいわけでもない相手から、いきなり今日の訓練はどうだったかなんて聞かれたところで、困るに決まっている。わざわざ自分の近況を報告してやる義理なんてないだろうし、向こうからすれば、余計なお世話もいいところだろう。
……いや、でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
せっかく勇気を出して話しかけたんだ。まだ会話が始まったばかりだというのに、これで終わってしまうのはさすがに寂しすぎる。
「あっ、いや、その……なんか、そっちの方も大変そうだけど、もしかしたら順調だったりするのかな~……なんて……」
我ながら、なんとも歯切れの悪い言い方だった。
しかも、言葉を補おうとするあまり、つい身振り手振りまで交えてしまう。傍から見たら、さぞかし落ち着きのない奴に見えることだろう。
……いや、実際、落ち着いていないんだけどさ。
とはいえ、気になっているのは本当だ。
アラガが取り組んでいるのは、あの魔眼の制御。以前、魔眼を開放した際に彼がどれほど苦しんでいたかを思えば、簡単に習得できるものではないはずだ。
それに、もし魔眼を自在に扱えるようになれば、彼自身の負担が軽減されるだけでなく、戦闘能力もさらに向上するかもしれない。
何か参考になる話が聞ける可能性だってある。
……まあ、今の反応を見る限り、あまり期待しない方がよさそうだけど。
「……」
「……あ」
アラガは何も答えず、こちらを見つめている。
その表情からは、何を考えているのかさっぱり読み取れない。若干、面倒くさそうにしているようにも見えるが、単に疲れているだけという可能性もある。
……大丈夫かな、これ。
やっぱり、話しかけるタイミングを間違えたのだろうか。
そんな不安が頭をよぎった、そのときだった。
「……別に何も。そもそも、この訓練に意味があるかどうかも甚だ疑問ではあるがな」
「……そっか」
思いのほか、ちゃんとした返事が返ってきた。
ただし、その内容はなかなかに辛辣だった。
訓練に意味があるかどうかも疑わしい、か。
どうやら、本人はまだ納得しきれていないらしい。まあ、無理もないのかもしれない。自分の魔眼を制御するための訓練だと言われても、具体的にどうすればいいのか分からないまま、試行錯誤を続けているのだから。
それでも、こうして素直に疑問を口にするあたり、少なくとも適当に訓練をこなしているわけではなさそうだ。
……なら、もう少し話を続けてみるか。
「……でも、魔眼を制御できるようになれば、あのときみたいに苦しむこともなくなるんじゃないか? それに、それだけの力を自在に扱えるようになれば、魔王だって倒せるかもしれないだろ?」
「……」
「先生も、きっとそれを見越して、いろいろ考えてくれてるんじゃないのか?」
今度は、先ほどよりも少しだけ踏み込んだ話をしてみた。
今回の補習について、アラガ自身はまだ疑問を抱いているようだ。だが、自分からすれば、リーフさんたちが彼を補習に参加させた理由は、決して単に魔眼の危険性を抑えるためだけではないように思えた。
きっと、彼らはアラガに魔眼をきちんと制御し、その力を使いこなせるようになってほしいのだ。
あの魔眼は、ただ強力なだけの能力ではない。使い方を誤れば、本人の身体にさえ深刻な負担を与えてしまう。だからこそ、力を抑え込むだけでなく、どう扱えば安全に使えるのかを身につける必要がある。
それに、もう一つ。
アラガは、魔王を倒すことを目標にしている。
その話を初めて聞いたときは、正直、無謀なことを言う奴だと思った。けれど、実際に彼の力を目の当たりにした今では、そう簡単に笑い飛ばせる目標ではなくなっている。
何せ彼は、人類がこれまで到達できなかった領域に、一人で踏み込んでみせたのだ。
その力に可能性を見出したからこそ、リーフさんも彼を放っておけなかったのではないだろうか。コールスタッシュ先生に頼み込んでまで補習を受けさせているのも、アラガの将来を考えてのことなのかもしれない。
もちろん、これは自分の推測にすぎない。
リーフさんたちが本当は何を考えているのか、本人たちから直接聞いたわけではないのだから。
それでも、少なくとも自分には、彼らがアラガの力を無駄にしたくないと思っているように見えた。
だからこそ、そのことを伝えてみたのだが――。
「……」
アラガは、相変わらず黙ったままだった。
……あれ?
もしかして、余計なことを言ってしまっただろうか。
彼が何を考えているのかは分からない。魔王を倒すという目標について、どんな思いを抱いているのかも、自分にはまだ理解できていない。
ただ、今日一日、彼が真剣に訓練へ取り組んでいた姿を思い返すと、魔王討伐を口先だけで語っているようには思えなかった。
なら、今の言葉も、わざわざ口に出す必要はなかったのかもしれない。
……いや、もう言ってしまったものは仕方ないか。
せっかく会話が続いているのだ。ここで気まずくなったからといって、すぐに話を切り上げるのも違う気がする。
それに、自分には、もう一つ聞いてみたいことがあった。
ずっと前から、気になっていたことだ。
この機会を逃したら、次に聞けるのはいつになるか分からない。
「……アラガ」
「……今度はなんだ?」
再び名前を呼ぶと、アラガはわずかにこちらへ顔を向けた。
相変わらず素っ気ない返事ではあるが、少なくとも話を聞く気はあるらしい。
……よし。
今度こそ、ちゃんと聞いてみよう。
「アラガは、なんで魔王を倒したいんだ?」
それは、彼が掲げている目標についての質問だった。




