第12章ー22
「ハア……ハア……ハア……」
荒い息を吐きながら、自分はその場に座り込んでいた。
先生の指示を受けてからというもの、真紅の鎧を身に纏ったまま、ただひたすら仁王立ちで立ち続けていたのだ。
余計な動作は一切していない。魔法を使うこともなければ、身体を動かすことすらなかった。
それなのに――。
「……二十分も持たなかったか」
自分の身体を覆っていた真紅の鎧は、すでに跡形もなく消え去っていた。
当初の目標は、まず三十分間維持すること。そこから少しずつ時間を延ばしていくつもりだったのだが、まさか何もせずに立っているだけで、ここまで早く限界を迎えるとは思わなかった。
いや、正確には、限界を迎える前に鎧そのものが維持できなくなったのだ。
「はあ……。想像してた以上にキツいな、これ……」
額に浮かんだ汗を拭いながら、思わず愚痴がこぼれる。
とにかく、魔力の消費が激しすぎる。
以前から分かっていたことではあるが、実際にこうして長時間維持しようとすると、その消費量が嫌というほど身に染みる。
業火剣を生成したときは、ここまで魔力を消耗することはなかった。もちろん、戦闘中に使い続ければ話は別だが、少なくとも武器を生み出すだけなら、消費する魔力はごくわずかで済んでいたはずだ。
それに比べて、この鎧はどうだ。
感覚的には、業火剣の数倍……いや、下手をすれば十倍近くの魔力を消費しているようにすら思える。
これでは、長時間戦うどころか、まともに戦闘を始める前に魔力切れを起こしかねない。
「……」
ふと視線を感じて顔を上げると、先生が黙ったままこちらを見つめていた。
その表情からは、何を考えているのか読み取れない。
ただ、腕を組んでじっとこちらを観察しているあたり、何かしら分析しているのだろう。
やがて、先生は口を開いた。
「……お前、その鎧の出力はどうしてる?」
「え?」
突然の質問に、思わず間の抜けた声が出てしまった。
出力……?
鎧を生み出す際に消費する魔力量のことだろうか。それとも、鎧そのものに込める魔力の強さを指しているのか。
少し考えてみたものの、そもそも自分は、これまで鎧の出力について深く意識したことがなかった。
「あ、えーっと……多分、全力で出してます」
「……は?」
「いや、その……鎧をイメージすることを優先してたんで、あんまり細かいところまでは意識してなかったんですけど……。防御力を上げるなら、魔力も多く込めた方がいいのかなって」
自分でも歯切れの悪い返答だと思う。
だが、実際にそうだったのだから仕方がない。
あのときは、とにかく太陽の魔力に耐えられる鎧を生み出すことに必死だった。身体を焼き尽くしかねない熱に対抗するため、少しでも頑丈な鎧を作ろうとした結果、自然と全力で魔力を注ぎ込むようになっていたのだ。
それが今でも当たり前になってしまっていたらしい。
すると、先生は盛大にため息をついた。
「アホか。そりゃあ、すぐにガス欠になるわけだ」
「……た、確かに」
ぐうの音も出なかった。
言われてみれば、その通りだ。
鎧を維持するために常に全力で魔力を注ぎ込んでいたら、消耗が激しくなるのも当然である。
これでは、魔力を節約するどころか、自分から進んで無駄遣いしているようなものだ。
もっとも、あのときは命がけの状況だった。細かな出力調整など考える余裕もなかったし、まずは身を守ることが最優先だったのだから、仕方のない部分もある。
しかし、これから先も同じやり方を続けるわけにはいかない。
鎧を使いこなすというのは、ただ生み出して身に纏うだけではないのだ。
必要な性能を維持しながら、どれだけ魔力の消費を抑えられるか。それもまた、重要な技術なのだろう。
「いいか。お前のその鎧は、防御特化じゃなくて機動力重視の鎧だろ。なのに、防御面にまで気ぃ遣ってどうすんだ?」
先生は呆れたような顔で続けた。
「業火剣然り、てめえの鎧然り。武器や防具を生成するのに、馬鹿みてえな魔力なんざ必要ねえんだよ。そもそも、お前はその鎧で何をしたいんだ?」
「えっ……」
「空を飛んで、敵の攻撃を避けて、隙を突く。そういう戦い方をするための鎧だろうが。だったら、必要以上に防御力を高めるより、機動力を維持できるだけの魔力を残しておく方がよっぽど合理的だ」
そう言われて、ようやく気づいた。
確かに、自分は鎧の性能ばかりに目を向けていた。
太陽の魔力に耐えられること。身体への負担を軽減できること。そして、飛行するための機能を備えていること。
そうした長所を伸ばすことばかり考えていたせいで、実際に戦闘でどう運用するのかという視点が抜け落ちていたのだ。
どれだけ頑丈な鎧を作れたとしても、肝心の魔力が尽きてしまえば意味がない。
むしろ、機動力を活かして敵の攻撃を回避できるのであれば、必要以上の防御力に魔力を割く必要もないのだろう。
「だから、まずは出力を一割。多くても二割程度に抑えろ。そこから必要に応じて調整していけばいい」
「い、一割ですか!?」
思わず聞き返してしまった。
今まで全力で魔力を注ぎ込んでいたというのに、いきなりその一割で鎧を維持しろというのか。
流石に、それでまともな鎧が作れるのだろうか。
……いや、待てよ。
そもそも、自分は出力を調整するという発想自体を持っていなかったのだ。
最初から全力で魔力を込めるのではなく、少しずつ出力を上げながら必要な性能を探っていけばいい。そうすれば、これまでよりも少ない魔力で鎧を維持できる可能性は十分にある。
「まずは出力の調整からだな。昼飯を食ったら再開するぞ。それまでに、ちゃんと魔力を回復させておけよ」
「はい!」
次に何をすべきなのかが、ようやく明確になった。
今までは、ただ強力な魔法を使えるようになることばかり考えていた。だが、強い力を持っているだけでは不十分なのだ。
その力をどれだけ効率よく扱えるか。
そして、必要なときに必要なだけ引き出せるか。
それもまた、強さを決める重要な要素なのだろう。
先生の指摘を胸に刻みながら、自分はゆっくりと立ち上がった。
まずは昼食を取って、魔力を回復させなければ。
そうして自分たちは、一旦補習を中断し、昼食を取るために寮へと戻るのだった。




