第12章ー21
先生に言われた通り、自分はあの真紅の鎧を身に纏った。
全身を覆う鎧は、太陽の魔力を扱うために改良を重ねたものだ。背中には飛行するための噴射口を備え、装甲をコンパクトにすることで、重量も可能な限り軽減している。
もっとも、見た目だけなら父の鎧と大差ないようにも思えるのだが……。
「なるほどな。背中に噴射口を付けて飛行も可能にしたってわけか。鎧もコンパクトにして、重量をなるべく軽減したと。悪くねえんじゃねえの?」
鎧姿の自分を一通り眺めた先生が、感心したように頷いた。
「あ、ありがとうございます」
思わず、そんな言葉が口から漏れる。
まさか先生から褒められるとは思っていなかった。
この人は基本的に厳しい。良いところがあれば認めてくれるものの、改善すべき点があれば遠慮なく指摘してくる。だからこそ、こうして素直に称賛されると、少しばかり嬉しくなってしまう。
……いや、本当に珍しいな。
「この鎧のおかげで、太陽の魔力にもある程度は耐えられるようになりました。ただ、長時間戦えるようにするのが、今後の課題だと思っています。流石に全開放すると、太陽の熱が鎧を貫通して伝わってきますし」
自分の言葉に、先生は「ふむ」と短く相槌を打った。
そう。今の鎧にも、まだ解決すべき問題が残されている。
それは、戦闘を継続できる時間だ。
太陽の魔力に対する耐性が向上したのは、間違いなく大きな進歩だろう。以前よりも高い出力を扱えるようになったし、鎧のおかげで身体への負担も多少は軽減されている。
だが、それだけでは不十分だった。
アラガとの試合で、嫌というほど思い知らされたからだ。
どれだけ強力な魔法を扱えたとしても、それを必要な場面で使い続けられなければ意味がない。
相手が強敵であればあるほど、こちらも全力を出さざるを得なくなる。魔力の出力を一段階、二段階と抑えて戦えるうちはいい。しかし、それでは太刀打ちできない相手が現れたとき、結局は出力を引き上げるしかなくなるのだ。
そして、出力を引き上げれば引き上げるほど、太陽の熱は容赦なく自分の身体を蝕んでいく。
だからこそ、三段階以上の出力でも安定して戦えるようにならなければならない。
今の自分では、全開放した状態を維持できるのは、せいぜい一分にも満たない。三段階であっても、数分間戦い続けられるかどうか怪しいところだ。
これでは、とても実戦で使いこなせているとは言えないだろう。
目標は、まず三十分。
贅沢を言うなら、一時間は戦い続けられるようになりたい。
……いや、そこまでできるようになって、ようやく安心できるのかもしれない。
ふと、迷宮での出来事が脳裏をよぎった。
長時間に及んだ探索。伝説と呼ばれるほどの魔物との死闘。そして、最後には十死怪クラスの魔物との連戦まで経験した。
あんな状況が何度も起こるとは思わない。むしろ、滅多に遭遇することのない異常な事態だったと言っていいだろう。
けれど、勇者を目指すのであれば、そんな常識外れの戦いに巻き込まれる可能性だってある。
何しろ、自分が十年前に助けられたときもそうだったのだから。
あのとき、自分たちを救ってくれた勇者は、十死怪との戦いを実質三連戦で乗り越えたうえで、命懸けで自分たちを助けてくれた。
今思い返しても、とんでもない話だ。
あれほどの戦いを潜り抜け、なおも他人を救うために動ける。その強さは、単に魔法の威力が優れているとか、剣の腕が立つとか、そういう次元の話ではないのだろう。
圧倒的な敵を前にしても戦い続けられるだけの実力。そして、最後まで誰かを守り抜くための体力と精神力。
自分が目指すべき勇者には、それらすべてが必要なのだ。
体力面については、地道に鍛え続ければ、いずれ何とかなるかもしれない。
しかし、実力となれば話は別だ。
強くなりたいと願うだけで、簡単に身につくものではない。強敵と戦い、己の未熟さを知り、それを一つずつ克服していく。結局は、その積み重ねでしか強くなれないのだろう。
だからこそ、この鎧を使いこなすことにも意味がある。
太陽の魔力をどこまで引き出せるのか。どれだけの時間、身体への負担を抑えて戦えるのか。そして、限界を迎える前に何ができるのか。
それらを把握し、改善していくことも、勇者に近づくための大切な一歩なのだ。
「なら、お前はまず、どれだけその状態を維持できるのか、きちんと把握しろ」
先生の声に、思考が現実へと引き戻された。
「最初は何もしない状態で維持する。次に、他の魔法を使いながら試す。最後に俺と戦闘だ。段階を踏んで負荷を上げていく。しばらくはそれで様子を見るぞ」
なるほど。確かに、いきなり実戦を想定した鍛錬を始めるよりも、まずは何もせずに鎧を維持できる時間を測るべきだろう。
そこから魔法を併用した場合、さらに戦闘を行った場合と、少しずつ条件を厳しくしていけば、どこに問題があるのかも分かりやすくなるはずだ。
大切なのは、自分の魔法を正しく理解すること。
ただ闇雲に鍛えるのではなく、現状を把握し、課題を見つけ、一つずつ解決していく。
そうすれば、今は届かないと思える領域にも、いつか手が届くかもしれない。
「はい!」
自分は力強く返事をした。
すると、先生は満足したように頷き、軽く手を叩く。
「んじゃ、夕飯前には終わらせんぞ」
その言葉を合図に、いよいよ補習が始まった。
こうして自分は、アラガとともに、太陽の魔力を使いこなすための鍛錬に取り組むことになったのだった。




