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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
12章 魔界大戦編~開戦~

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第12章ー19

 「…………は?」


 間の抜けた声が漏れた。


 何だ、これ。


 いや、待て。


 自分が理事長室に呼ばれていたのは、ほんの数分のことだ。そこから体育館に戻ってくるまでの時間を合わせても、せいぜい二十分も経っていないはず。


 それなのに、一体何があったらこんな状況になるんだよ!?


 アラガはコールスタッシュ先生の胸元を掴んだまま、険しい表情で睨みつけている。


 一方の先生は、相変わらず気だるげな様子だった。


 ……いや、気だるげというより、どこか哀愁が漂っているようにも見える。


 何なんだ、この温度差は。


 少なくとも、和やかな雰囲気とは程遠い。


 むしろ、いつどちらかが動き出してもおかしくないほど、張り詰めた空気が二人の間に漂っていた。


 ……いやいやいや。


 どうしてこうなった!?


 補習を始めるどころか、今にも喧嘩が始まりそうなんですけど!?


 自分は扉に手を掛けたまま、二人の様子を交互に見つめた。


 止めに入るべきか。


 それとも、まずは何があったのかを確認するべきか。


 というか、そもそもアラガは何で先生の胸ぐらを掴んでいるんだ?


 自分がいない間に、何か言い争いでもあったのだろうか。


 まさか、補習の内容を巡って揉めた……とか?


 いや、アラガなら十分あり得そうな気もする。


 あいつは自分が納得できないことには、簡単に首を縦に振らないタイプだ。先生の指導方針に何か不満でもあったのかもしれない。


 ……とはいえ、さすがにそれだけで胸ぐらを掴むとは思いたくない。


 思いたくないんだけどなぁ。


 「…………」


 「…………」


 二人とも、自分が入ってきたことには気づいているはずなのに、すぐには反応しなかった。


 それどころか、こちらに視線すら向けようとしない。


 まるで、目の前の相手以外は眼中にないとでも言わんばかりだった。


 おいおい。


 頼むから、自分が戻ってくるまでに何があったのか、誰か説明してくれ。


 ……いや、まずはこの状況をどうにかするのが先か。


 自分は内心で頭を抱えながら、二人の間に漂う不穏な空気を前に、どう声を掛けるべきか必死に考えた。


 そして――。


 「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!! 何やってんだよ、アラガ!?」


 考えるより先に、声が出ていた。


 とりあえず、これ以上事態が悪化する前にアラガを止めなければ。


 自分は慌てて二人のもとへ駆け寄ろうとする。


 「ッ!?」


 すると、アラガがびくりと肩を震わせた。


 ようやく自分の存在に気づいたらしい。


 ……本当に気づいていなかったのかよ。


 それだけ怒り心頭だったということなのだろうか。


 いや、気持ちは分からなくもないけどさ。だからって、先生の胸ぐらを掴むのはどうなんだ。


 「おっ。戻ったか」


 「…………」


 一方のコールスタッシュ先生は、あっけらかんとした様子で自分に声を掛けてきた。


 いや、戻ったか、じゃないんですよ。


 何があったのかは知らないけど、今まさに生徒に胸ぐらを掴まれていたんですよね?


 もう少し何かあるでしょう!?


 驚くとか、怒るとか、せめて困った顔をするとか!


 ……いや、先生の性格を考えると、そういう反応を期待する方が間違っているのかもしれない。


 「ちっ!」


 そんな自分の内心など知る由もなく、アラガは舌打ちを一つ。


 そして、先生の胸元を掴んでいた右手を乱暴に放した。


 「あっ」


 思わず声が漏れる。


 どうやら、止めに入ることには成功したらしい。


 ……いや、自分が声を掛けたから手を放しただけで、別に納得したわけじゃないんだろうけど。


 アラガは不機嫌そうに顔を背けると、それ以上何も言わずに先生から距離を取った。


 その表情からは、まだ怒りが収まっていないことが見て取れる。


 うん。やっぱり、何かあったんだな。


 しかも、ちょっとやそっとのことじゃなさそうだ。


 「はあ……。先生、何があったんですか?」


 ひとまずアラガが手を放したことに安堵し、自分はため息をつきながら先生に尋ねた。


 今日は本当にせわしない。


 朝から色々とありすぎて、そろそろ頭がパンクしそうなんですけど。


 理事長室ではギリスケの衝撃的な話を聞かされ、ようやく気持ちを切り替えて戻ってきたと思ったら、今度はこの有様だ。


 ……少しくらい、平穏な時間があってもいいんじゃないですかね?


 「さあな」


 「……さあな、って」


 返ってきたのは、あまりにもあっさりとした返事だった。


 思わず聞き返してしまう。


 いやいやいや。


 先生、さっきまで目の前で胸ぐらを掴まれていたんですよね?


 それなのに、何があったのか分からないってことですか?


 ……いや、待てよ。


 先生のことだ。


 本人は何とも思っていないような一言で、相手を無自覚に煽ってしまった可能性もある。


 それなら、先生が本気で理由を分かっていないというのも、十分あり得る話だった。


 もちろん、実際のところは分からない。


 先生が本当に何も分かっていないのか。それとも、何か事情があって話したくないだけなのか。


 今の態度だけでは判断できなかった。


 「それより、とっとと始めるぞ」


 「……はい」


 先生はそれ以上説明するつもりがないらしく、さっさと話を切り上げて補習を始めようとした。


 ……いや、気になるんですけど。


 めちゃくちゃ気になるんですけど!


 とはいえ、ここでしつこく問い詰めたところで、先生が素直に答えてくれるとも思えない。


 それに、これ以上押し問答を続けていたら、肝心の補習時間が削られてしまう。


 自分だって、いつまでもこの場で立ち尽くしているわけにはいかなかった。


 「……分かりました」


 釈然としない気持ちを抱えたまま、自分は渋々頷いた。


 アラガの方をちらりと見る。


 相変わらず不機嫌そうな顔をしているが、少なくとも、今すぐ先生に掴みかかるつもりはなさそうだった。


 ……本当に、何があったんだよ。


 結局、その疑問が解消されることはなかった。


 こうして自分は、胸の奥に小さな引っかかりを残したまま、コールスタッシュ先生の指示に従って補習に参加することになったのだった。

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