第12章ー17
「この話が真実なのであれば、彼にも情状酌量の余地はあるだろう」
「ッ!? 本当ですか?!」
思わず身を乗り出し、声を弾ませてしまった。
情状酌量の余地がある。
その言葉が、今の自分には何よりも救いだった。
「確証はないけどね。でも、あの人たちも鬼じゃない。彼の話が真実であれば、ぞんざいに扱ったりはしないだろう」
リーフさんは、少し困ったように微笑んだ。
もちろん、ギリスケが本当に祖父の命令で動いていたのか、今の段階では分からない。本人がそう説明しただけで、それが事実だと決まったわけではないのだから。
それでも、希望がまったくないわけではない。
そうか……ギリスケが今回の事件の首謀者ではなく、やむを得ず指示に従っていたのだとすれば、少なくとも事情を考慮してもらえる可能性はある。
無罪になるのは難しいかもしれない。けれど、犯行に至った経緯や、置かれていた家庭環境が考慮されれば、刑が軽くなることだって十分に考えられるはずだ。
もちろん、そう簡単な話ではないだろう。
それでも、最悪の結果しか想像できなかった今の自分にとって、その可能性があるというだけで随分と気持ちが楽になった。
「恐らく、君にも近いうちに事情聴取のため、騎士団へ来るよう連絡があるだろう。その際に、彼と面会することもできるはずだ。これを機会に、きちんと彼と話し合ってみるといい」
「は、はい!」
騎士団で事情聴取か。
どうやら、自分も今回の事件について話を聞かれることになるらしい。
まあ、ギリスケとは半年以上も同じ学園で過ごしてきたんだ。何か知っていることがあるかもしれないと考えれば、当然のことなのだろう。
もっとも、自分自身、あいつの隠された能力すら知らなかったのだ。今回の事件について、どれだけ役に立つ話ができるかは分からない。
それでも――。
ギリスケ本人と会えるのなら、話は別だ。
今まで一緒に過ごしてきたなかで、自分が知らなかったことは山ほどあるのかもしれない。あいつがどんな家庭環境で育ってきたのかも、祖父からどんな扱いを受けていたのかも、自分は何一つ知らなかった。
だからこそ、今度こそ本人の口から聞きたい。
どうして、こんなことになったのか。
本当に祖父の命令だったのか。
そして、あいつ自身は何を思っていたのか。
聞きたいことなら、いくらでもある。
「私からの話は以上だ。何か聞きたいことはあるかい?」
ふと、リーフさんがそう尋ねてきた。
「……いえ。聞きたいことは、あいつから聞きます」
自分は小さく首を横に振った。
本当は、まだまだ疑問が残っている。
反人類活動とは、一体何を企んでいる組織なのか。ギリスケの祖父は、どうして学園に保管されている機密資料を必要としていたのか。そして、あいつは本当に自分の意思に反して従っていたのか。
考え始めれば、きりがない。
けれど、今ここでリーフさんに質問を重ねたところで、分からないことも多いだろう。
それに、自分が本当に知りたいのは、事件の概要だけじゃない。
ギリスケが何を考え、何を思い、どうしてあんな行動を取ることになったのか。
それは、本人にしか話せないことだ。
「ふっ。そうか」
自分の返答を聞いたリーフさんは、どこか納得したように笑った。
「忙しいなか、すまなかったね。補習、頑張って」
「あ、いえ。こちらこそ、ありがとうございました。それじゃあ、失礼します」
そう言って頭を下げ、自分は理事長室を後にした。
扉が閉まると、廊下の静けさが戻ってくる。
つい先ほどまで、リーフさんから聞かされた話が頭の中を駆け巡っていた。
ギリスケが犯罪に関わっていたこと。
その背後に、反人類活動という組織が関わっていること。
そして、あいつが祖父の命令に従っていた可能性があること。
どれも、今までの学園生活からは想像もできなかった話ばかりだ。
……本当に、何がどうなっているんだよ。
心の中でぼやきながらも、自分は足を止めなかった。
今はまだ、何も分からない。
けれど、いつまでもここで考え込んでいるわけにもいかない。コールスタッシュ先生とアラガが体育館で待っているはずだし、補習だって残っている。
まずは、目の前のことを片づけよう。
ギリスケの件については、騎士団から呼び出しがあったときに、改めて向き合えばいい。
そう自分に言い聞かせ、自分は体育館へと続く廊下を歩き出した。
――あいつと、もう一度ちゃんと話すために。




