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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
12章 魔界大戦編~開戦~

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第12章ー16

 「…………え?」


 思わず、間の抜けた声が漏れた。


 頭の中が真っ白になる。つい先ほど聞かされた話だけでも十分すぎるほど衝撃的だったというのに、今度はギリスケの家系が、あの反人類活動《アンヒューマビティ》の筆頭だという。


 情報が多すぎて、正直、頭が追いつかない。


 「反人類活動《アンヒューマビティ》って、たしか人間社会そのものを否定している団体でしたよね?」


 なんとか記憶を手繰り寄せ、自分は確認するように尋ねた。


 「うん。ちゃんと勉強しているみたいだね」


 リーフさんは、いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべて頷いた。


 自分でもよく、こんな状況で授業の内容を思い出せたものだと思う。


 反人類活動《アンヒューマビティ》。


 それは、人間社会の仕組みや人類の在り方そのものを否定し、果てには人類の滅亡すら願う者たちを指す言葉だ。


 社会に変革を求める革命家――そう表現することもできるのかもしれない。


 ただ、その思想が行き着く先を考えれば、過激派どころか、もはや何をしでかすか分からない危険な連中という印象の方が強い。


 自分たちが生きる社会を変えたいという気持ちは、理解できなくもない。誰だって、不満や理不尽を抱えることはあるだろう。


 けれど、それが自分たち人類の滅亡を願うところまで行き着くとなれば、話は別だ。


 ……いや、そもそも、そんな考えに至る連中が何を思って活動しているのか、自分には想像もつかない。


 「今回の件は、彼の祖父からの指示だったらしくてね。かなり厳しい家庭環境に置かれていたようで、彼も逆らえず、仕方なく従ったそうだよ」


 「ッ!?」


 その言葉に、自分は再び息を呑んだ。


 ギリスケの家系が反人類活動の中心にいる。


 それだけでも十分に驚くべき事実だ。だが、今回の犯行が、彼自身の意思ではなく、祖父の命令によるものだったというのは……。


 「……なんですか、それ」


 気づけば、そんな言葉が口をついて出ていた。


 いや、違う。


 驚いているんじゃない。


 胸の奥から、どす黒い感情がじわじわと込み上げてくる。


 怒りだ。


 「つまり、自分の孫に犯罪の片棒を担がせたってことですよね?」


 「……サダメ君」


 リーフさんが、わずかに表情を曇らせた。


 さっきまで落ち着いた様子で話していた彼の顔に、かすかな戸惑いが浮かんでいる。


 ……しまった。


 どうやら、自分で思っていた以上に感情が表に出てしまっていたらしい。


 けれど、一度湧き上がった怒りは、そう簡単には収まってくれなかった。


 「許せねえ……」


 低く吐き捨てるように呟く。


 自分たちの活動のために、家族を利用する。


 それも、まだ若い自分の孫をだ。


 大切に守り、育てるべき存在を、自分の目的を果たすための道具として扱う。


 そんなことが、許されていいはずがない。


 ギリスケがどんな事情を抱えていたのか、自分はまだ知らない。普段のあいつからは想像もつかない話ばかりで、今だって混乱している。


 それでも、祖父の命令だからという理由だけで、あいつに犯罪を犯させたのだとしたら。


 そんなやり方を、自分は到底受け入れられなかった。


 「リーフさん。あいつは……ただ指示されただけで、今回の犯行に及んだんですよね?」


 怒りを抑えきれないまま、自分は問いかけた。


 確かめずにはいられなかった。


 ギリスケが本当に自分の意思でやったことなのか。それとも、逆らえない状況に追い込まれ、仕方なく従ったのか。


 そこだけは、どうしても知りたかった。


 「先ほども話したけれど、詳しい事情までは分からないんだ。今回の話がどこまで真実なのかも含めて、騎士団の人たちがきちんと調べてくれるだろう」


 「……そう、ですよね」


 返事をしながら、自分は少しだけ冷静さを取り戻した。


 リーフさんが話してくれた内容は、あくまでギリスケ本人から聞いたものだ。本人がそう説明したからといって、それがすべて真実だとは限らない。


 祖父からの命令だったという話も、厳しい家庭環境に置かれていたという話も、今の段階では確証がないのだ。


 だからこそ、騎士団が取り調べを行う必要がある。


 魔法を使って真偽を確かめる方法もあるのかもしれない。いずれにせよ、自分がここでいくら考えたところで、事実が明らかになるわけではなかった。


 ……頭では分かっている。


 分かってはいるけれど、それでも。


 「……俺は、まだギリスケのことを信じたいです」


 自然と、そんな言葉が口からこぼれた。


 ギリスケとは、半年以上も同じ学園で過ごしてきた。


 授業を受けて、くだらない話をして、時には一緒に騒いで。


 あいつがどんな人間なのか、すべてを知っているわけじゃない。それでも、これまで一緒に過ごしてきた時間まで、嘘だったとは思いたくなかった。


 今回の件だって、何か事情があったのかもしれない。


 いや、そうであってほしい。


 もちろん、犯罪を犯したという事実があるのなら、何もかもなかったことにはできないだろう。それでも、あいつが本当はどんな気持ちで行動したのか、自分は自分の目で確かめたい。


 友人だからこそ、信じたいと思った。


 「うん。私も、そう信じたいところだよ」


 リーフさんは静かに頷いた。


 その声には、先ほどまでの軽い調子はなかった。


 学園の理事長として、今回の件を簡単に見過ごすわけにはいかない。だからこそ、彼はギリスケを騎士団に引き渡したのだろう。


 それでも、ギリスケを最初から悪人だと決めつけているわけではないらしい。


 立場上の判断なのか、それとも一人の人間として彼を案じているのか。


 そのどちらなのかは、自分には分からなかった。


 ただ、リーフさんの言葉に嘘がないことだけは、不思議とはっきり感じ取れた。


 自分は小さく息を吐き、俯きかけていた顔を上げる。


 まだ、何も分かっていない。


 ギリスケがどうしてこんなことをしたのかも、彼の家族が何を企んでいるのかも。そして、反人類活動《アンヒューマビティ》が今回の件にどこまで関わっているのかも。


 分からないことだらけだ。


 けれど、一つだけ決めていた。


 真実が明らかになるまでは、あいつを信じる気持ちを捨てたくない。


 自分の知っているギリスケ・アンドリューズが、ただ命令に従うだけの人間だとは、どうしても思えなかったから。

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