第12章ー15
「…………は? コピー?」
「彼は、触れた物を複製できる『模倣魔法』の使い手だったみたいでね。他にもいくつかの魔道具を利用して資料を持ち出し、誰にも気づかれないように複製したうえで、元の資料を戻していたそうだ」
「模倣魔法……」
今度こそ、言葉が出なかった。
コピー?
いや、待て。
この世界に、そんな概念があること自体には驚かない。
魔法が存在する世界なのだから、物を複製する魔法があったって不思議じゃない。
だが、問題はそこじゃない。
この国の重要情報が記された資料。
それを、ギリスケが複製していた?
しかも、自分自身の魔法で。
「……」
そういえば、俺は今まで、ギリスケがまともに魔法を使っているところを一度も見たことがなかった。
授業でも、実技訓練でも、派遣任務でも。
少なくとも、俺の知る限りでは、あいつが魔法を使って何かを成し遂げた場面は思い浮かばない。
それなのに、まさかこんな魔法を持っていたとは。
……いや、そもそも。
今まで魔法を使っているところを見せなかったのは、わざとだったのか?
自分の能力を周囲に悟られないようにして、今回のような機会を待っていた。
もしそうだとしたら、俺が知っているギリスケの姿は、あいつのほんの一面にすぎなかったことになる。
……マジかよ。
驚くべきところは、それだけじゃない。
金目の物を盗んだわけじゃない。
金に困っていたからでもない。
なら、ギリスケは一体、何のためにそんなことをしたんだ?
頭の中に新たな疑問が次々と浮かび上がる。
そんな俺の様子を見て、リーフさんは説明を続けた。
「実はね、ここには生徒の名簿だけじゃなく、我が国に関する機密情報も保管されているんだ」
「ッ!? そうだったんですか!?」
思わず声が裏返った。
生徒の名簿なら分かる。
理事長室なのだから、学園の運営に関わる重要書類が保管されていても不思議じゃない。
けれど、国家機密?
どうしてそんなものが学園の、それも理事長室に保管されているんだ?
「学園と王国騎士団は、設立当初から深い関わりがあってね。一部の機密事項を、こちらで預かっているんだよ」
「な、なるほど……」
なるほど、と頷いてみたものの、簡単に納得できる話ではなかった。
学園と騎士団に繋がりがあること自体は知っている。
実際、騎士団の人間が学園に出入りすることもあるし、教師の中には騎士団と関係の深い人もいる。
でも、それと国家機密を預かっていることは別の話だ。
そんな重要なものを、学園に保管しておいて大丈夫なのだろうか。
いや、そもそも、どうしてそんなことになっているんだ?
「もちろん、情報を漏らせば私も罰せられる可能性があるからね。詳しいことまでは話せないんだけど」
「ッ!?」
さらっと、とんでもないことを言われた。
国家機密を預かっているだけでも驚きなのに、それを漏らせば理事長であるリーフさん自身も罰せられる可能性があるらしい。
……いや、そりゃそうか。
むしろ、責任を問われない方がおかしいだろう。
そんなことを考えていると、リーフさんは何でもないことのように付け加えた。
「といっても、さすがに理事長の立場である私でも、そんな情報をおいそれと読めるわけじゃないからね。中身については、ほとんど知らないんだけど」
「……」
……この人、今の話をどこまで深刻に受け止めているんだ?
冗談めかした口調で、とんでもない秘密を次々と明かしてくる。
まあ、詳しい事情を話せないというのは理解できる。
国家機密なのだから、誰にでも話せるような内容じゃないのだろう。
それにしても、まさかこの部屋にそんなものが保管されていたとは。
ひょっとすると、リーフさんと騎士団の関係が深いのも、こうした事情が関係しているのかもしれない。
……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「……ん? でも、どうしてそんなものをギリスケが?」
そこで、ようやく肝心な疑問に立ち返った。
国家機密が保管されている理由は、ひとまず分かった。
けれど、それだけではギリスケが理事長室に侵入した理由にはならない。
リーフさんですら内容を詳しく知らないような資料だ。
そんなものを、どうしてギリスケがわざわざ狙ったんだ?
単なる金目当てじゃないのなら、目的は別にあるはずだ。
……まさか。
国家機密をどこかに売り渡そうとしていた、とか?
考えた瞬間、背筋に嫌なものが走った。
もし本当にそうなら、ただの窃盗では済まされない。
国の重要情報を外部に流すなんて、下手をすれば国家反逆罪に問われてもおかしくないんじゃないか?
もちろん、今の段階では何も分からない。
ギリスケが何を考えていたのかも、誰かに頼まれてやったことなのかも、何一つとして判明していないのだ。
それでも、今回の件が俺の想像していた以上に重大な問題であることだけは分かった。
……一体、何が目的なんだよ、ギリスケ。
「……私も、詳しい事情までは聞けなかったんだが」
俺の疑問を察したのか、リーフさんが静かに口を開いた。
先ほどまでの軽い調子とは違う。
声の響きが、わずかに重くなっていた。
「彼の家系が、反人類活動の筆頭を務めているそうだ」




