第12章ー14
「…………え?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
ギリスケ。
今、確かにそう言ったよな?
あのギリスケを、騎士団に引き渡した?
いや、待て。
そもそも、どうしてギリスケが騎士団に引き渡されるような事態になっているんだ?
連行された、ではなく、引き渡した。
その言い回しも少し気になったが、今はそれどころじゃない。
ギリスケが騎士団に捕まった。
その事実だけで、俺の頭の中はすっかり混乱していた。
「彼は昨日、この理事長室に侵入してね。それを私が捕らえて、軽く事情を聞いたんだ」
「……え、えっと、ちょっと待ってください!?」
さらなる爆弾発言に、俺の思考が完全に停止しかけた。
侵入?
この理事長室に?
それをリーフさんが捕まえた?
……いやいやいや。
情報が多すぎる!
つまり、ギリスケは昨日、この部屋に忍び込んで、リーフさんに見つかり、そのまま捕まったということか?
そして、事情を聞いたあと、騎士団に引き渡された。
……うん。何一つとして理解できない。
「え、あの……ギリスケが侵入したってことは、何か盗もうとしたんですか?」
とりあえず、頭の中に浮かんだ疑問を一つずつ処理していくことにした。
リーフさんは俺の質問に、少しも動じることなく頷く。
「まあ、そうなるね」
「……」
やっぱり盗み目的だったのか。
いや、でも……。
「……なんで?」
思わず、そんな言葉が口から漏れた。
金に困っていたのだろうか。
最初に思い浮かんだのは、それだった。
けれど、すぐに首を傾げる。
ギリスケが金に困っているようには見えなかったからだ。
俺達は以前、派遣任務に参加している。その報酬だって、それなりの額だったはずだ。
少なくとも、日々の生活に困窮するほど懐が寂しいとは思えない。
最近は、ちょっとした贅沢くらいならできるだけの余裕もある。
それなのに、わざわざ理事長室へ忍び込んでまで盗みを働く必要があるのか?
賭博にのめり込んで借金を抱えている、なんて話も聞いたことがない。
女遊びに金をつぎ込んでいるようにも見えないし、そもそも、そんなことをしているギリスケの姿がまるで想像できなかった。
……いや、俺が知らないだけで、実はそういう一面があったのか?
だが、半年以上も友達として付き合ってきたんだ。
普段のアイツがどんな人間なのか、ある程度は分かっているつもりだ。
もし金遣いが荒かったり、怪しげな連中と付き合っていたりするなら、何かしら噂が耳に入ってきてもおかしくない。
それなのに、そんな話は一度も聞いたことがなかった。
だからこそ、余計に理解できない。
どうしてギリスケが、こんなことを?
しかも、昨日といえば学園祭の真っ最中だ。
皆が祭りを楽しんでいるなか、わざわざ理事長室に忍び込むなんて、どう考えても普通じゃない。
「……」
ふと、昨日のことを思い出す。
そういえば、ギリスケは一日中、俺達と一緒に行動していたわけではなかった。
マヒロ達からも、昨日は一人で動いていた時間があったと聞いている。
もちろん、一人で行動すること自体は珍しくもない。
けれど、今回の件を考えると、どうしても引っかかってしまう。
まさか、最初から理事長室に忍び込むつもりだったのか?
だとしたら、突発的に思いついた犯行ではない。
学園祭の人混みに紛れ、誰にも気づかれないように行動する。
そんな計画を、あらかじめ立てていた可能性だってある。
……いや、待て。
考えれば考えるほど、分からなくなってきた。
計画的に盗みを働くほど、ギリスケは追い詰められていたのか?
それとも、俺の知らないところで何か事情があったのか?
どちらにしても、今の情報だけでは判断できない。
「……ギリスケのやつ、本当に何か盗んだんですか?」
恐る恐る、俺は核心に迫る質問を投げかけた。
できれば、違うと言ってほしかった。
何かの誤解だったとか、別の理由があったとか。
そういう話であってほしいと思っている自分がいる。
けれど、もし本当に盗みを働いたのなら、いつまでも友達だからという理由で庇うわけにはいかない。
学生だろうと何だろうと、罪を犯したのなら、きちんと償うべきだ。
……それくらいは、俺だって分かっている。
それでも。
あのギリスケが、という思いは拭いきれなかった。
「……盗んだ、といえば盗んだことになるかな」
「……はい?」
思わず、聞き返してしまった。
盗んだといえば盗んだことになる?
なんだ、その曖昧な言い方は。
盗んだのか、盗んでいないのか。
どっちなんだ?
「どういうことです?」
俺が尋ねると、リーフさんはわずかに表情を引き締めた。
先ほどまでの穏やかな雰囲気はそのままなのに、部屋の空気だけが変わったような気がした。
「彼は、この国の重要情報が記された資料を――『コピー』していたんだ」




