第12章ー13
「すまないね。朝早くから、こんなところまで連れ回してしまって。お茶でも飲むかい?」
「は、はあ。ありがとうございます」
理事長室へと案内された俺は、リーフさんに促されるままソファーに腰を下ろし、差し出されたお茶を受け取っていた。
湯呑みから立ち上る湯気を眺めながら、そっと室内を見回す。
……うん。落ち着かない。
なんだかんだ、この部屋に入るのは初めてだ。
職員室とは違い、調度品の一つひとつにまで高級感が漂っている。広々とした室内に、上品な家具。座っているソファーだって、普段俺が使っているものとは明らかに違う。
なんというか……俺には不釣り合いな場所に来てしまった気がする。
それに、ここは理事長室だ。
学園のトップが使う部屋なのだから、当然といえば当然なのだろうが、そう考えると余計に緊張してしまう。
うっかりお茶をこぼしたり、何かを壊したりでもしたらどうしよう。
……いや、さすがにそこまでドジじゃないと思いたい。
それでも、普段より背筋が伸びてしまうのは仕方のないことだろう。
「……」
俺は手元の湯呑みに視線を落とし、小さく息を吐いた。
いかんいかん。こんなことで緊張してどうする。
そもそも、俺は遊びに来たわけじゃない。
リーフさんには、俺をわざわざ呼び出した理由があるはずだ。
しかも、先生との会話を聞く限り、二人きりで話さなければならないほどの用件らしい。
それが何なのか、未だにさっぱり分からないのだが。
「あ、あの。それで、大事な話っていうのは……?」
さすがに、これ以上ただ座っているわけにもいかず、俺はお茶を一口飲んでから切り出した。
熱いお茶が喉を通り、ほんの少しだけ気持ちが落ち着く。
けれど、胸の内にある疑問が消えるわけではない。
ここまで来なければ話せないこと。
騎士団が朝早くから学園を訪れていたこと。
そして、俺だけがリーフさんに呼び出されたこと。
どれも気になることばかりだ。
……アラガに関する話、というわけでもなさそうだしな。
さっきのやり取りを思い返してみても、リーフさんが俺に話したいことと、アラガの補習が直接関係しているようには思えなかった。
だとすれば、一体何の話なんだろう。
「うん。そうだったね」
俺の問いかけに、リーフさんは思い出したように頷いた。
そして、自分の湯呑みを手に取ると、ゆっくりとお茶を口に含む。
「……」
……いや、そんなにのんびりしていて大丈夫なんですかね?
いや、別に急かしたいわけじゃないけど。
俺としては、ここまで引っ張られた以上、そろそろ本題に入ってほしいところだ。
「彼らをあまり待たせるのも悪いし、できるだけ簡潔に話すとしようか」
「彼ら……?」
思わず聞き返しそうになったが、すぐに先生とアラガの二人の事だと思い出し、口をつぐんだ。
リーフさんは湯呑みを机に戻すと、静かにこちらを見つめた。
「サダメ君。驚かないで聞いてほしい」
「……? はい」
そう言って、リーフさんは机の上で両手を組んだ。
いつもの穏やかな笑みは変わらない。
けれど、その口調は先ほどまでとは少し違っていた。
何気ない雑談をしているときの柔らかさが薄れ、これから伝えることの重大さを念押しするような響きがある。
……え、何?
驚かないで聞いてほしい?
そんな前置きをされて、平然としていられる人間がいるだろうか。
むしろ、そう言われたことで、さっきまでよりも不安が膨らんでしまった。
頭の中で、いくつもの可能性が浮かんでは消えていく。
俺が何か問題を起こしたのか。
学園で何か事件でもあったのか。
それとも、魔闘祭に関係する新たな問題が発覚したのか。
……駄目だ。まるで見当がつかない。
「……」
俺は湯呑みを持つ手に、無意識のうちに力を込めていた。
リーフさんは、そんな俺を見据えたまま、静かに口を開く。
「今朝、ギリスケ・アンドリューズ君の身柄を、騎士団に引き渡した」




