第12章ー10
いつからそこにいたのか、まったく分からなかった。
というか――。
「……俺達の会話、聞いてました?」
思わず尋ねる。
さっきまで俺と先生が話していた内容を、どこから聞いていたのか。
補修の話も。
先生が「誰かに頼まれた」と言っていたことも。
全部聞かれていたのだとしたら、なんだか妙に気恥ずかしい。
そんな自分の驚きを楽しむように、リーフさんは穏やかな笑みを浮かべていた。
「さて、いつからだろうね?」
「……」
爽やかな笑顔で、やんわりと答えをぼかされた。
……なんか怖くなってきたんだけど。
笑顔なのに、どうにも底が見えない。
そんな自分の感想など知ったことではないように、先生が煙草を咥えながらリーフさんへ声を掛けた。
「なんすか? こっちに面倒事を放り投げたくせに、結局見に来てんじゃないっすか」
「面倒事って……」
思わず苦笑する。
相変わらず先生は、理事長相手でも容赦がない。
「つーか、向こうの連中、放っといていいんすか?」
先生がそう尋ねると、リーフさんは少しだけ困ったように笑った。
「ああ。今しがた用事は済んで、ちょうど帰るところだよ。少しばかり急ぎの用件があってね」
「朝っぱらからっすか? 向こうもご苦労なことっすね」
「申し訳ないとは思ってるんだけどね。昨晩、連絡を入れたら、すぐに向かうと言い出してきたんだよ。私としては、今日中に来てくれれば問題なかったんだけど」
「向こうなりの配慮っしょ」
先生は煙草を指で挟みながら、肩を竦める。
「昼間にあんな連中が大所帯で来たら、野次馬共がうるさいだろうし」
「……」
なるほど。
先生とリーフさんの会話を聞いて、ようやく事情が見えてきた。
さっきまでリーフさんが一緒にいたという「向こうの連中」。
つまり、騎士団の人達だ。
どうやら、自分達が見掛けた騎士団は、やっぱりリーフさんと何か話をするために来ていたらしい。
しかも、昨晩連絡を入れて、朝一番で駆け付けてきたという。
流石に早すぎる時間だったらしく、リーフさん自身も少々戸惑っていたようだが――先生の言う通り、騎士団側なりに学園へ配慮してくれたのだろう。
確かに、昼間に騎士団の人達が大勢で学園へやって来たら、嫌でも目立つ。
生徒達が見れば、「何か事件でも起きたのか?」と騒ぎになるだろうし、そうなれば休暇中の教員達まで対応に追われることになる。
そう考えると、わざわざ朝早くに来たのも納得できる。
……なんだかんだで、ちゃんと考えて動いてくれているんだな。
でも――。
「それにしても……」
自分はちらりとリーフさんを見る。
そこまでして急いで来てもらわなければならない用件って、一体なんなんだ?
学園祭が終わったばかりとはいえ、何か関係があるのだろうか。
それとも――。
自分が考えを巡らせていると、先生が再び口を開いた。
「んで? わざわざここまで足を運んでくれたってことは、今日は手伝ってくれるんすか?」
「すまない。そのために来たわけじゃないんだ」
「ちっ」
「……」
先生が露骨に舌打ちした。
しかも、隠す気がまったくない。
普通こういうのって、もう少し取り繕うものじゃないのか?
自分は思わず二人の顔を見比べる。
けれど、リーフさんは特に気にした様子もない。
むしろ「またか」とでも言いたげな穏やかな表情を浮かべている。
……慣れてるんだろうな。
この二人、普段からこんなやり取りをしているのだろうか。
「というか先生、さっき『面倒事』って言ってましたけど……」
「気にすんな」
「いや、気になりますよ」
そんなやり取りをしていると、リーフさんがふとこちらへ視線を向けた。
そして――。
「もう一つ用事があってね」
「……?」
自分が首を傾げる。
リーフさんはそのまま自分の方へ歩み寄ってくると、自然な動作で自分の肩へ手を置いた。
「ちょっと、彼を借りに来てね」




