第12章ー9
「…………え?」
一瞬。
何を言われたのか、理解できなかった。
補修?
自分とアラガの?
「……俺と?」
「お前と」
先生が俺を指差す。
「それからアイツ」
今度はアラガを指差した。
「……は?」
アラガも、僅かに眉を寄せる。
どうやらこいつも、今初めて聞かされたらしい。
そりゃそうか。
自分だって寝耳に水なんだ。アラガが知っているわけがない。
……いや、待て。
そもそも、アラガと一緒に補修ってどういうことだ?
自分達は同じクラスではある。
けど、戦い方も違えば、得意な魔法だってまるで違う。
自分は炎と光。
アラガは氷。
それなのに、わざわざ自分達二人を同じ補修にする理由が分からない。
「ちょ、ちょっと待ってください」
頭の中が追いつかず、思わず先生を呼び止める。
「補修って……俺、優勝逃しましたけど? いいんですか?」
そこで、自からあの日の約束を持ち出した。
魔闘祭の前。
先生と交わした、あの約束。
――魔闘祭で優勝したら、引き続き補修授業を続けてもらう。
ただの勉強じゃない。
先生に修行をつけてもらうための補修授業だ。
自分はその約束を、ずっと覚えていた。
だからこそ、優勝できなかった以上、当然その権利はなくなったものだと思っていた。
「お前、忘れてたのか?」
「え?」
先生は呆れたように煙草を咥え直した。
「あの時の話なら、ちゃんと覚えてる。お前が優勝できなかった以上、本来ならお前の補修授業は中止になる予定だった」
「あ、やっぱり……」
やっぱりそうだ。
なら話は早い。
自分の補修は終わった。
……そう思った。
だが――。
「だがな」
先生は、そこで言葉を切った。
煙草から立ち昇った白い煙が、自分達の間をゆっくりと漂っていく。
その向こう側で、先生の目が細められた。
「本当は、そうなるはずだったんだがな」
「……?」
なんだ?
その言い方。
まるで、何か事情が変わったみたいじゃないか。
「だが、あの人から頼まれちまったもんでな」
「あの人から……?」
自分は思わず聞き返した。
誰かに頼まれた。
つまり、本来なら自分の補修授業は中止になるはずだった。
なのに、その「誰か」の頼みで、予定が変わったということか?
それだけならまだ分かる。
でも――。
なぜアラガまで?
自分はちらりと隣を見る。
アラガは腕を組んだまま、先生の話を黙って聞いている。
どうやら、こいつもこの話については何も知らないらしい。
……一体、誰が先生にそんなことを頼んだんだ?
「あの人から頼まれたって……もしかして」
頭の中に、一人の人物が浮かんだ。
この学園で、先生に直接何かを頼める立場。
そして、自分達の事情を知っていてもおかしくない人物。
もしかして――。
自分がその名前を口にしようとした、その瞬間だった。
「私だよ」
「「ッ!?」」
背後から、突然声が響いた。
「うわっ!?」
思わず肩が跳ねる。
慌てて振り返った。
いつの間に――。
「……リーフさん?」
そこに立っていたのは、やはり予想していた人物だった。
学園長――リーフ・エンドレッドであった。




