第12章ー8
「アラガ。なんで……ここに?」
気付けば、そんな言葉が口から零れていた。
「あ?」
呼び掛けられたアラガは、怪訝そうに眉を寄せる。
……いや、そりゃそうか。
いきなり会って早々、「なんでここに?」なんて聞かれたら、誰だってそんな顔をする。
俺達がここへ来た経緯も知らないんだ。今の言い方だと、まるで「お前、なんで勝手にここにいるんだよ」とでも言っているように聞こえてしまう。
もちろん、そんなつもりはない。
むしろ、さっきまで騎士団が来ていた理由について考えていたせいで、予想外のタイミングで本人が現れたことに驚いただけだ。
「悪い。そういう意味じゃなくて――」
そう言い直そうとした、その時だった。
「おう。ちゃんと来たみてーだな」
「……」
先生が、俺達のやり取りなど気にする様子もなく、アラガへ声を掛ける。
その態度は、あまりにも自然だった。
まるで、アラガがここに来ることを最初から知っていたかのように。
……あ。
そういうことか。
「もしかして……先生が呼んだんですか?」
「ああ」
先生はあっさりと頷いた。
やっぱり。
だったら、さっき先生が「アイツなら、多分大丈夫だろ」と言っていた理由も分かる。
俺達が体育館へ向かっていることも、アラガがここへ来ることも、先生は最初から知っていたんだ。
だから、あんなに余裕そうな態度をしていたのか。
……だったら最初からそう言ってくれればいいのに。
こっちは騎士団がアラガを捕まえに来たんじゃないかとか、本気で心配していたというのに。
そんな俺の考えを知ってか知らずか、先生はアラガへ視線を向けると――。
「連中にパクられてなくて良かったな」
「?」
アラガが僅かに首を傾げる。
「……何の話だ?」
「……」
先生は、俺を見る。
それからアラガを見る。
そして、口元を僅かに吊り上げた。
……この人。
「いや、なんでもねーよ」
「?」
完全に分かっててやってるな。
さっき俺が勝手に「騎士団がアラガを連れていくんじゃないか」と考えていたことを、わざわざ蒸し返している。
アラガは何のことか分からず、怪訝そうな顔をしたままだ。
「……先生」
「ん?」
「絶対、分かってて言ってますよね?」
「何のことだ?」
「いや、その顔ですよ」
「どんな顔だよ」
「その、ちょっと楽しそうな顔です」
「気のせいだ」
「絶対気のせいじゃない……」
なんだか急に恥ずかしくなってきた。
自分だけ勝手に最悪の展開を想像して、勝手に焦っていたのだ。
しかも、そのことを先生には完全に見抜かれている。
……穴があったら入りたい。
アラガも俺達の会話を聞いているものの、未だに何の話をしているのか分かっていないらしい。
まあ、当然か。
そもそも俺が勝手に勘違いしていただけなんだから。
「そ、それより……」
これ以上この話を続けていたら、俺の精神が持たない。
俺は無理やり話題を切り替えることにした。
「そろそろ用件を話してくれませんか?」
目的地である体育館にも着いた。
アラガまでここに呼ばれている以上、何かしら理由があるはずだ。
俺とアラガをわざわざ同じ場所に呼び出したんだ。
先生が何を考えているのかは分からないけど、きっと何か重要な話があるに違いない。
「ああ。そうだったな」
先生はようやく思い出したように頷いた。
そして、体育館の入り口へ歩み寄る。
そのまま扉の横へ身体を預けるようにもたれ掛かると、懐から煙草を取り出した。
「……また吸うんですか?」
「一本くらい好きにさせろ」
「別に駄目とは言ってないですけど……」
先生は慣れた手つきで火を点ける。
小さな炎が一瞬だけ揺らめき、煙草の先端が赤く灯った。
ゆっくりと煙を吸い込む。
そして――。
「ふう……」
白い煙を吐き出した。
その煙が風に流され、俺達の目の前を横切っていく。
なんだろう。
たったそれだけの動作なのに、妙に勿体ぶっているように見える。
俺とアラガが揃って先生を見つめていると、先生はようやく口を開いた。
「……これから、お前達二人の補習を受け持つことになった」




