第12章ー7
「あっ」
「ん? 今度はなんだ?」
体育館が見えてきたところで、ふと頭の中に引っかかっていたものが繋がった。
そうだ。
騎士団の人達が、わざわざ学園まで来ていた理由。
さっきまでは「何か事件でも起きたのか?」くらいにしか考えていなかった。けど、今になって一つだけ心当たりが浮かんできた。
「アラガ。人魔のことですよ!?」
「……ああ」
先生もすぐに察したらしい。
やっぱりそうだ。
あの人達がここへ来た理由は、きっとアラガの件だ。
魔闘祭で、アラガは魔眼を大勢の観客の前で見せてしまった。
もちろん、あれだけでアラガが人魔だと断定できる人は、そう多くないだろう。
そもそも人魔なんて、普通に暮らしているだけなら滅多にお目にかかれるものじゃない。
けど――もし。
もし観客の中に、人魔について詳しく知っている人がいたとしたら?
アラガの魔眼を見て、「もしかして」と気付いたとしてもおかしくはない。
そして、その情報が騎士団に伝わったのだとしたら……。
「……まさか」
嫌な想像が脳裏をよぎる。
騎士団がアラガを探しに来た。
いや、それだけならまだいい。
国が人魔という存在をどう扱っているのか、自分は詳しく知らない。
けど、人魔が普通の人間とは違う存在として警戒されている可能性くらいは想像できる。
ましてやアラガは、魔闘祭でとんでもない魔力を見せつけた。
もし国が人魔を危険視しているのなら――。
「……アラガの身柄を、引き渡せって言いに来たんじゃ……」
思わず口に出してしまう。
考えれば考えるほど、嫌な方向へ想像が膨らんでいく。
アラガは確かに危険な奴だ。
自分だって何度も殺されかけたし、アイツ自身も自分達に対して敵意をむき出しにしていた。
それでも。
だからといって、何も知らない連中に一方的に連れていかれていいとは思わない。
少なくとも、俺は嫌だ。
そんなことを考えていると――。
「……アイツなら、多分大丈夫だろ」
「え?」
あまりにもあっさりした先生の言葉に、思わず聞き返してしまった。
「大丈夫って……?」
先生はそれ以上何も言わない。
ただ、いつもの気だるそうな表情のまま、前を向いている。
意外だった。
こんな時の先生なら、
「あー、ありえんくもないな」
くらいは言いそうなものなのに。
少なくとも、自分の知っている先生なら、自分の嫌な想像を一度くらいは肯定してきそうなものだ。
それなのに、今回は最初から否定してきた。
ということは――先生には、自分とは違う何かが見えているのか?
「……先生」
「なんだ?」
「何か知ってるんですか?」
そう尋ねると、先生はちらりとこちらへ視線を向けた。
けれど、答える代わりに小さく鼻を鳴らす。
「さあな」
「いや、絶対なんか知ってるでしょ」
「気のせいだ」
「絶対気のせいじゃないですよね、それ」
「ちっ。うっせーぞ、クソガキ」
相変わらず、この人はこういうところだけ妙に誤魔化す。
けど――。
先生がそこまで落ち着いているのなら、少なくとも今すぐ最悪の事態になるわけじゃないのかもしれない。
そう思って、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。
――その時だった。
「ほれ。噂をすればだ」
「……え?」
先生が顎をしゃくる。
その視線の先。
体育館の入り口へ目を向けた瞬間――。
「ッ!?」
思わず息を呑んだ。
そこに、見覚えのある男が立っていた。
銀色の髪。
冷たい目。
そして、どこか不機嫌そうな表情。
「……アラガ」
思わず名前が零れる。
まさか、こんなタイミングで本人が出てくるとは思わなかった。
騎士団が来ている理由を考えた直後に、その当人が現れる。




