第12章ー6
「何かあったんですかね?」
目の前に広がる光景がどうにも気になって、自分は思わず先生へ尋ねた。
朝っぱらから学園に騎士団員が十数人。
しかも、魔道馬まで何頭か用意されている。
どう考えても、ただ遊びに来ているようには見えない。
もしかして、何か事件でも起きたのだろうか。
学園内で何か問題があったとか、外で事件が起きてその調査に来ているとか。
先生なら何か知っているんじゃないか。
そんな期待を込めて聞いてみたのだが――。
「あん?」
先生は、こちらへ一瞥を向けただけだった。
「さあな。どうせ、あの人が呼んだんじゃねーのか?」
「……あの人?」
「理事長だよ」
「ああ……」
やっぱりリーフさんか。
確かに、学園で何かあったとすれば、リーフさんが騎士団へ連絡するのは普通にありそうだ。
けれど、先生の言い方には妙に棘がある。
というか、なんだろう。
今の「あの人」という言葉だけで、普段から相当いろいろ思うところがあるのが伝わってくる。
すると先生は、騎士団員たちのいる方向へ視線を向けたまま、さらに口を開いた。
「それか、なんかチクられたか」
「チクられた?」
「学園が休みでも平気で人を働かせるような鬼畜だ。なんか裏でヤベーことでもやってたんだろ。けっ、ざまあねーぜ」
「…………」
先生は吐き捨てるように言いながら、騎士団員たちのいる方向へ向かって、親指で首を掻っ切るようなジェスチャーまでしている。
完全にリーフさんへの私怨じゃん。
いや、そりゃ先生がリーフさんからどんな仕事を押し付けられているのか、自分には全部は分からない。
でも、ここまで露骨に嫌っているとは思わなかった。
……相当、鬱憤が溜まっているんだな、この人。
とはいえ、リーフさんが裏でヤバイことをしているとは考えにくい……と思う。
たぶん。
きっと。
そんなことを考えながら、自分はしばらく騎士団員たちの様子をぼんやり眺めていた。
――そのときだった。
「あっ」
騎士団員の一人と、目が合った。
「…………」
「…………」
やばい。
今の自分たちを、傍から見たらどう見える?
先生は騎士団の方を向いて、首を掻っ切るようなジェスチャーをしている。
その隣には、自分。
……どう考えても、騎士団を煽っているようにしか見えない。
違う。
俺は何もしてないぞ。
というか、先生が勝手にやってるだけだからな!?
「ちっ」
自分がそんなことを考えていると、先生も騎士団員と目が合ったことに気付いたらしい。
露骨に舌打ちをする。
「関わると面倒だ。とっとと行くぞ」
「は、はい!?」
急に先生が歩く速度を上げた。
「ちょ、先生、待ってください!」
慌てて後を追う。
まあ、確かにこのままここに居続けたら、何か事情を聞かれる可能性はある。
先生がただ面倒事を避けたいだけなのか、それとも本当に何か心当たりがあるのかは分からない。
ただ、自分としても騎士団から変な目で見られるのは勘弁してほしい。
別に俺は何も悪いことしてないし。
そんなことを考えながら、自分も先生に続いてその場を離れていく。
そして、すれ違う直前。
自分はさっき目が合った騎士団員へ、ほんの小さく頭を下げた。
会釈。
それだけ。
――俺は何も関係ありませんよ。
そんな意思表示のつもりだった。
もちろん、こんな小さな動きで意味が伝わる保証なんてない。
むしろ、余計に怪しまれた可能性すらある。
頼むから、変な奴だと思わないでくれよ。
自分はただ先生についてきただけなんだから。
そんな願いを胸の中で呟きながら、自分は先生の背中を追って歩いていく。
……ただ。
ほんの一瞬。
さっきの騎士団員が、自分に向かって小さく頭を下げ返したように見えた。
「…………」
気のせい、だよな?
歩きながら振り返りそうになるのを、なんとか堪える。
今さら確認するのも変だ。
自分はそのまま前を向き直り、先生の後を追う。




