第12章ー5
先生に呼び出された俺は、その後ろを黙ってついていく。
向かっている方角から察するに、目的地はいつも補習を受けている体育館だろう。
……いや、待て。
なんで俺、こんなに大人しくついていってるんだ?
いや、別に逆らう理由があるわけじゃない。先生に呼ばれたんだから、ついていくのは当然だ。問題なのは、俺の胸中で嫌な予感がどんどん膨れ上がっていることだった。
そういえば――。
ふと、ある約束を思い出す。
魔闘祭で優勝しなければ、補習を受けさせてもらえない。
そう。俺は先生と、そんな約束というか取引をしていたのだ。
そして、結果はどうだったか。
……優勝できなかった。
いや、正確には決勝戦に出場することすらできなかったわけだが、そんなことは今さら言い訳にもならない。
まさか、今回の用件って――。
『お前との約束はここまでだ。二度と俺のところに来るな』
なんて言われるんじゃないだろうな!?
いやいやいや、落ち着け、俺!
確かに約束を果たせなかったのは事実だ。けど、だからといって、いきなり破門を言い渡されると決まったわけじゃない。
そもそも、もしそれが用件なら、さっきの時点で告げればよかったはずだ。わざわざ呼び出す必要はない。
……うん。そう考えれば、別件である可能性も十分にある。
ある、はずだ。
なのに、どうしてこうも落ち着かないんだろうな、俺は。
結局のところ、心のどこかでは最悪の事態を想定してしまっているのだろう。
何しろ、今の俺にとって、先生から教わることは想像以上に大きな意味を持っている。
そのことを改めて実感したのは、ブラムとの戦いだった。
あのとき、先生から魔導結界について教わっていなかったら。
魔断の太刀を習得していなかったら。
俺たちは、あいつに勝つどころか、まともに対抗することすらできなかったかもしれない。
もちろん、実際の戦いではマヒロやミオたちの力もあった。俺一人の力でどうにかなったわけじゃない。
それでも、先生から学んだ知識が俺たちの命を救う一助になったのは間違いない。
そして、あの戦いで思い知らされた。
この世界には、俺の知らないことがまだまだ山ほどある。
どれだけ魔法を鍛えようと、どれだけ身体を鍛えようと、知識がなければ対処できない敵だっているのだ。
だからこそ、先生のもとで学べる機会は失いたくない。
……うん。こうして考えると、ますます失うわけにはいかないな。
だが、現実は非情である。
俺は約束を果たせなかった。
どれだけ先生の教えが必要だと訴えたところで、約束を破った側の人間が偉そうに要求できるはずもない。
むしろ、今まで面倒を見てもらえただけでも感謝すべきなのかもしれない。
そう考えると、余計に胃が痛くなってきた。
……頼む。どうか、あの約束を忘れていてくれ。
いや、忘れているはずだ。きっとそうに違いない。
だって先生、普段から補習だの訓練だのと、いろいろ忙しそうにしているじゃないか。生徒との約束なんて、一つや二つくらい記憶の片隅に追いやられていてもおかしくない。
そうだ。人間、誰だって忘れることくらいある。
だからきっと――。
「ん?」
そんなふうに、都合のいい希望へ必死に縋っていたときだった。
ふと視界に入った光景に、俺は思わず足を緩めた。
そこにいたのは、二、三台の魔道馬。
そして、その周囲には十数人もの騎士団員が集まっていた。




