第12章ー3
「…………は?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
いや、言葉自体は分かる。
「決闘せよ」という意味も、マヒロが本気で言っていることも理解できる。
でも――。
「いやいやいや!?」
思わず声を上げてしまう。
「なんでそうなるんだよ!?」
俺が無事だと分かった。
それなら普通は「よかった」と安心して、それで終わりじゃないのか?
なのに、どうしてそこから決闘に発展するんだ!?
「無事であると分かった以上、遠慮する理由はないでござる!」
「いや、遠慮してくれよ!」
何だその理屈!?
心配してくれていたことには感謝する。
それは本当にありがたい。
でも、だからといって無事を確認した直後に刀へ手を掛ける奴がいるか!
……いたわ。
目の前に。
「昨日の試合、拙者は不完全燃焼のまま勝利を手にしたでござる。そのモヤモヤ、今ここで晴らさせてもらおうぞ!」
「昨日の試合……?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で昨日の記憶が少しずつ繋がった。
魔闘祭。
準決勝。
そして――決勝。
「……あっ」
そういうことか。
ようやくマヒロが決闘を求めている理由が分かった。
昨日の魔闘祭、俺はアラガとの試合で限界を迎え、そのまま医務室へ運ばれた。
その後、どうやら俺は決勝戦に出場できなかったらしい。
結果として――俺は不戦敗。
そして、決勝の相手だったマヒロが優勝した。
「……もしかして、昨日の決勝のこと?」
「その通りでござる!」
マヒロが即答する。
やっぱりか。
彼女にとっては、望んでいた勝利じゃなかったんだ。
自分の力で俺と戦って、その上で勝ちたかった。
それなのに、俺が倒れてしまったせいで戦うことすらできなかった。
優勝という結果だけを見れば立派なものだけど――本人からすれば、到底納得できるものじゃないのだろう。
「だから、その鬱憤を今ここで晴らそうってわけか……」
「うむ!」
満面の笑みで頷くマヒロ。
……なるほど。
理由は分かった。
分かったけど――。
「いや、それでも駄目だろ」
「なぜでござるか?」
「なぜって……」
俺は周囲を見回す。
まだ朝早い。
学園内にはほとんど人がいない。
とはいえ、ここは寮の近くだ。
こんな場所で魔法なんか使ったら、建物やら何やらを壊しかねない。
何より――。
「俺、起きたばっかりなんだけど?」
「ならば身体を慣らすところから始めればよいでござる!」
「いや、そういう問題じゃない!」
頭痛だってまだ完全には治っていない。
腹が減っていたところをミオのハンバーガーで救ってもらったばかり。
そして何より、昨日あれだけの戦いをしたばかりだ。
身体は動かせる。
でも、だからといって全力で戦っていい理由にはならない。
「マヒロ、頼むから今日はやめよう」
「……」
マヒロが黙り込む。
少しは話を聞いてくれたか?
そう思ったのも束の間――。
彼女は腰に差した刀へ手を添えた。
「……ならば」
「え?」
ゆっくりと、刀を抜く。
「いざ尋常に――」
「ちょっ!? 待てって!」
話を聞けぇ!
俺が必死になってマヒロを止めようとしていた――その時だった。
「おい」
「……え?」
背後から、低い声が響いた。
聞き覚えのある声。
しかも、明らかに不機嫌そうな声だった。
俺とマヒロは同時に動きを止める。
「朝っぱらから何やってんだ。馬鹿野郎ども」
「……」
「……」
恐る恐る振り返る。
そこに立っていたのは――。
「コールスタッシュ先生……」
煙草を咥え、見るからに機嫌の悪そうな顔をした先生が、俺達を睨みつけていた。




