第12章ー2
「ふぅ……」
ミオからの差し入れのおかげで、なんとか空腹を凌ぐことができた。
まだ少し頭は重いものの、さっきまで感じていた猛烈な空腹感はすっかり収まっている。
身体を動かすのに支障があるほどではない。
なら――。
「朝練、するか」
これも日課の一つだ。
いつもより少し早い時間ではあるものの、もう目もだいぶ覚めてきた。
朝食の時間まではまだ余裕がある。
軽く走る程度なら、食堂が開く頃には戻ってこられるだろう。
そう判断した俺は、着替えて寮を出た。
外はまだ薄暗い。
朝の冷たい空気が頬を撫でる。
「よし」
軽く身体を伸ばしてから、いつものランニングコースへ向かおうとした――その時だった。
「おお!? サダメでござらぬか!?」
「ッ!? マヒロ!?」
突然、聞き慣れた声が飛んできた。
振り向いてみると、そこにはマヒロがいた。
「おはよう。こんな時間から朝練?」
「うむ! いつも通りでござる!」
いつも通り。
その言葉を聞いて、俺は思わずマヒロの姿を改めて見る。
……マジか。
昨日は学園祭があった。
その後には後夜祭だってあったはずだ。
確かマヒロも参加していたよな?
それなのに、こんな朝っぱらからいつも通りのテンションで朝練をしている。
「……マヒロって、昨日寝たの?」
「もちろんでござる!」
「ちゃんと寝た上で、この時間から?」
「うむ!」
即答だった。
……凄ぇ。
俺なんて昨日の試合でぶっ倒れて、一晩寝てもまだ身体が重いっていうのに。
いや、そもそもマヒロは俺と違って試合後も普通に動いてたんだよな。
改めて考えると、本当に体力どうなってんだ、こいつ。
そんなことを考えていると、マヒロがこちらへ近づいてきた。
そして、俺の顔をじっと見つめる。
「……?」
「もう動いて大丈夫でござるか?」
その声音には、明らかな心配が滲んでいた。
「え?」
一瞬、何のことか分からなかった。
けれど、すぐに昨日のことを思い出す。
そうか。
俺が試合の後、そのまま倒れて寝ていたことを心配してくれていたんだ。
「……ああ、うん。多分、大丈夫だと思う」
頭はまだ少し痛い。
でも、それ以外に特におかしなところはない。
「さっき起きた時は頭痛かったけど、今はだいぶマシになったし。腹も減ってたけど、ミオが差し入れ置いてくれてたから、それ食ったら元気出てきた」
「そうでござるか……」
マヒロは俺の言葉を聞きながら、しばらくこちらを見つめていた。
そして――。
「……そうでござるか」
小さく呟いた。
「それは何より」
その言葉を聞いて、俺も少し安心した。
どうやら心配させてしまっていたらしい。
「心配してくれてたんだな。ありがとな、マヒロ」
「…………」
俺がお礼を言うと、なぜかマヒロは黙り込んだ。
「あれ?」
てっきり「無論!」とか言って笑うものだと思っていた。
ところが――。
マヒロは突然、俯いた。
「……マヒロ?」
どうしたんだ?
さっきまで普通だったのに。
「であれば……」
「ん?」
小さな声が聞こえた。
顔を上げたマヒロの目は――妙に真剣だった。
そして次の瞬間。
「……であれば!」
「?」
マヒロの手が腰へ伸びる。
「拙者と――」
マヒロは魔剣・魔妖の柄へ手を添えながら、真っ直ぐに俺を見る。
その表情には、先ほどまでの心配そうな様子など微塵も残っていない。
むしろ――。
今にも飛びかかってきそうなほど、生き生きとしている。
「決闘せよ!!」




