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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

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第11章ーおまけ10

 数分後。


 私は、慌ただしく廊下を駆け回る生徒たちを横目に見ながら、ようやく理事長室へと辿り着いていた。


 窓の外へ目を向ければ、空はすでに夕暮れ色へと染まり始めている。


 昼間の喧騒も少しずつ落ち着いてきてはいるものの、まだ校内には多くの生徒が残っていた。


 もう間もなく、後夜祭が始まる時間だ。


 その準備に追われているのだろう。


 廊下を走り抜けていく生徒。


 友人同士で声を掛け合いながら荷物を運ぶ生徒。


 どこからともなく聞こえてくる笑い声。


 学園祭が終わった直後だというのに、校内はまだ活気に満ちていた。


 「まったく……元気なものだね」


 思わず苦笑する。


 廊下を走るのは感心しないが、今日くらいは大目に見てもいいだろう。


 とはいえ、怪我をされても困る。


 すれ違った生徒たちには、念のため軽く注意だけしておいた。


 「廊下は走らないようにね」


 「は、はい! すみません!」


 元気な返事を残し、生徒たちは再び目的地へと駆けていく。


 私はそんな彼らの背中を見送った後、理事長室の前で足を止めた。


 「さて……」


 ここまで来れば、一教員としての仕事はひとまず終わりだ。


 後夜祭の準備もあるが、今の私には理事長として片付けておかなければならない仕事が残っている。


 先ほどライラック先生から預かったSDカードも、その一つだ。


 私はポケットの中に入れていたそれを確認すると、理事長室の扉へ手を伸ばした。


 そして――。


 ドアノブを握った、その瞬間だった。


 「……ん?」


 指先に触れた感触。


 それ自体に異常はない。


 だが。


 何かがおかしい。


 私は無意識に眉を寄せた。


 扉の向こう。


 ほんの僅かではあるが、魔力の痕跡を感じ取ったのだ。


 微弱なものだ。


 普通なら気のせいで片付けてしまう程度の濃度しかない。


 だが、私はこの部屋を知っている。


 理事長室の内部には、私が独自に施した防犯用の魔法が幾重にも張り巡らされている。


 そして今日、この部屋へ入ったのは――私だけのはずだった。


 やはりおかしい。


 ゆっくりとドアノブへ視線を落とす。


 そこで、さらに違和感が増した。


 ――鍵が開いている。


 おかしい。


 私はこの部屋を出る際、確かに施錠した。


 しかも、ただ鍵を掛けただけではない。


 魔力による施錠を複数重ね、念のために簡単には解除できないよう細工している。


 それを、この扉はまるで何事もなかったかのように開けられる状態になっている。


 「…………」


 一瞬、思考が止まった。


 誰かが開けた?


 いや。


 それなら、どうやって?


 魔法を破ったのか。


 あるいは、私の施錠を解除できる何らかの手段を持っていたのか。


 そもそも――。


 誰が?


 何のために?


 疑問が次々と浮かんでくる。


 私はドアノブを握ったまま、扉の向こう側へ意識を集中させた。


 気配は……感じない。


 しかし、先ほど感じた魔力の痕跡だけは確かに残っている。


 頭の中に、最悪の可能性が浮かんだ。


 学園祭に乗じた侵入者。


 人が大勢集まり、校内の警備が普段よりも分散する今日という日を狙って、何者かが理事長室へ侵入したのだとしたら。


 それは、偶然ではない。


 明確な意図を持った犯行ということになる。


 私は一度、ゆっくりと息を吐いた。


 まずは状況を整理する。


 ここには、金目の物などほとんどない。


 理事長室に保管されているのは、学園の創設から現在に至るまでの歴史書。


 歴代の在籍者や卒業生の名簿。


 この国に関する各種の史料。


 派遣任務の依頼書。


 そして、私個人宛てに届いた手紙など。


 貴重な資料もいくつかあるとはいえ、一般的な物取りが狙うような財宝や高価な品など、ほとんど存在しない。


 ならば。


 もし本当に誰かが侵入したのだとすれば――目的は金ではない。


 だとすると、何を狙った?


 歴史書か。


 生徒たちの名簿か。


 国家に関する史料か。


 あるいは――私個人に関係する何かか。


 考えれば考えるほど、不穏な可能性ばかりが浮かんでくる。


 外部から侵入したのか。


 それとも、内部の人間か。


 学園の構造を知らなければ、この部屋まで辿り着くこと自体が難しい。


 ましてや、防犯用の魔法を破るとなればなおさらだ。


 「…………」


 私はもう一度、静かに息を吐いた。


 先ほどまで聞こえていた生徒たちの笑い声が、急に遠くなったように感じる。


 数分前まで、私は今年の学園祭が無事に終わったことを喜んでいた。


 生徒たちは笑っていた。


 来賓の方々も楽しんでくれていた。


 教員たちも、それぞれの仕事を終えようとしていた。


 ――そのはずだった。


 なのに。


 今、私の目の前には、その平穏を壊す何者かの痕跡が残されている。


 許せない。


 怒りが込み上げてくる。


 だが、それに任せてはいけない。


 私はこの学園の理事長だ。


 生徒たちの安全を預かる立場にある。


 だからこそ、感情に流されるわけにはいかない。


 まずは確認する。


 侵入者がまだ室内にいる可能性。


 盗まれた物の有無。


 そして――何者が、何の目的で侵入したのか。


 全てを明らかにする。


 「……よし」


 呼吸を整え、私はドアノブを握り直した。


 扉の向こうに何が待っているのかは分からない。


 犯人が外部の人間なのか。


 学園関係者なのか。


 あるいは、私がまだ知らない何者かなのか。


 今は何一つ分からない。


 それでも。


 学園祭という大切な行事に乗じて侵入し、生徒たちや来賓の安全を脅かすような真似をした者を、学園の責任者として見過ごすわけにはいかない。


 私は静かに覚悟を決めた。


 必ず、犯人を炙り出してみせる。


 そして――


 絶対に、捕まえてみせる。


 私はゆっくりとドアノブを回した。

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