第11章ーおまけ9
魔闘祭が終了し、学園祭も無事に幕を下ろした。
長かったような、短かったような――。
振り返ってみれば、今年の学園祭は例年以上に慌ただしいものだった。
それでも。
今、こうして学園祭を終えた校内を見渡せば、生徒たちの笑い声が響き、来賓の方々も満足した様子で帰路に就いている。
少なくとも、大きな事故や被害を出すことなく終えることができた。
それだけで、私は十分に胸を撫で下ろしていた。
「皆、まずはご苦労様でした。今年は色々と大変だったけれども、生徒も来賓の方々も、十分に楽しんでくれたことだろう。それもこれも、君達がそれぞれの持ち場で適切に対応してくれたおかげだ。教員である君達には、私から皆を代表して感謝を申し上げる」
学園祭終了後。
私は教員全員を集め、簡単なミーティングを開いていた。
目の前には、疲労の色を隠しきれない教員たちの姿が並んでいる。
無理もない。
準備期間から今日まで、誰もが自分の仕事を抱えながら、生徒たちの安全と学園祭の運営に尽力してくれたのだ。
特に今年は、想定外の出来事も多かった。
それでも誰一人として持ち場を放棄することなく、その時々で最善を尽くしてくれた。
学園長として、これほど心強いことはない。
だからこそ、今日くらいはきちんと言葉にして伝えておきたかった。
ありがとう、と。
「打ち上げの前に、生徒達の手伝いやら後夜祭の準備やら、まだ色々と残っているだろうからね。とりあえず、一旦ここで解散としようか」
教員たちから、僅かに安堵の空気が漂う。
……とはいえ。
まだ完全に仕事が終わったわけではない。
学園祭の後片付けも残っているし、生徒たちだけで行われる後夜祭の準備もある。
教員だけの打ち上げについても予定しているが、そこへ向かうにはもう少しだけ仕事を片付けなければならない。
「あっ、そうだ。コールスタッシュ先生は、少しだけ残っておいてくれるかい? 頼みたいことがあるんだ」
「うげっ!? またかよ!?」
露骨に嫌そうな声が返ってきた。
思わず苦笑してしまう。
「そんな顔をしなくてもいいじゃないか。ほんの少しだよ」
「その『ほんの少し』が信用できねぇんだよ……」
「ははは。まあ、そう言わずに」
こうして教員たちは一度解散となり、コールスタッシュ先生だけが渋々その場に残ることになった。
さて。
私もまだやるべきことは残っている。
その一つを片付けるために、ライラック先生へ視線を向ける。
「理事長。これ、渡しておきますね」
「ん?」
差し出されたのは、小さな一枚の記憶媒体だった。
「……ああ。ありがとう、ライラック先生」
受け取ったそれを指先で持ち上げる。
これはSDカードと呼ばれる魔道具だ。
正確には、映像を記録し、保存するための記憶媒体。
昨年、我が校の生徒であるソンジ・マートス君が、映像機器と合わせて開発したものだ。
初めて見た時も思ったが、こうして改めて手に取ってみると、本当に小さい。
これほど小さな魔道具の中に、映像という膨大な情報を保存できる。
魔法技術というものは、本当に奥が深い。
「今年の魔闘祭の試合映像が全部入っています。後で整理して保管しておいてください」
「分かった。これなら、生徒達の活躍をいつでも見返せるね」
今回、このSDカードには魔闘祭の試合映像が記録されている。
単なる記録映像ではない。
生徒たちがこの学園で何を成し遂げたのか。
どんな戦いを繰り広げ、どんな経験を積み、どんな成長を見せたのか。
それらを後世へ残すための、大切な記録なのだ。
学園という場所は、毎年新しい生徒を迎え入れる。
そして、卒業していく生徒を見送る。
その繰り返しだ。
だからこそ、過去の出来事を形として残すことには意味がある。
いつか何十年、何百年という時が流れた後。
この映像を見た誰かが、
「この年には、こんな生徒たちがいたのか」
そう思ってくれれば、それだけでも十分に価値があるだろう。
それにしても――。
こんなミクロサイズの魔道具一つで、学園の思い出を残せるようになるとは。
マートス君の発想力と技術力には、未だに驚かされる。
若いというだけで可能性を決めつけてはいけない。
彼女を見ていると、改めてそう思わされる。
ライラック先生と別れた後、私はしばらくコールスタッシュ先生と話をした。
やがて話を終えると、私は預かったSDカードを手に理事長室へと向かった。
廊下を歩きながら、ふと窓の外を見る。
そこには、まだ学園祭の余韻を楽しむ生徒たちの姿があった。
笑い声。
友人同士で語り合う声。
今日の出来事を興奮気味に振り返る声。
その光景を眺めながら、私は小さく息を吐いた。
――終わったのだ。
今年の学園祭が。
大変なこともあった。
頭を抱えたくなるような問題もあった。
それでも最後には、生徒たちが笑っている。
それだけで、学園長として肩の荷が少し降りたような気がした。
……さて。
感慨に浸っている場合ではない。
まだ後夜祭も残っているし、その後には教員たちとの打ち上げも待っている。
そして何より、この学園には明日も生徒たちがやって来る。
今日が終われば、また明日が始まる。
私は手の中の小さなSDカードを見つめ、それを大切に握り直した。
今年の思い出を、ここへ残すために。
私は理事長室へと足を進めた。




