↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

787/830

第11章ーおまけ9

 魔闘祭《マジル・フェスティバル》が終了し、学園祭も無事に幕を下ろした。


 長かったような、短かったような――。


 振り返ってみれば、今年の学園祭は例年以上に慌ただしいものだった。


 それでも。


 今、こうして学園祭を終えた校内を見渡せば、生徒たちの笑い声が響き、来賓の方々も満足した様子で帰路に就いている。


 少なくとも、大きな事故や被害を出すことなく終えることができた。


 それだけで、私は十分に胸を撫で下ろしていた。


 「皆、まずはご苦労様でした。今年は色々と大変だったけれども、生徒も来賓の方々も、十分に楽しんでくれたことだろう。それもこれも、君達がそれぞれの持ち場で適切に対応してくれたおかげだ。教員である君達には、私から皆を代表して感謝を申し上げる」


 学園祭終了後。


 私は教員全員を集め、簡単なミーティングを開いていた。


 目の前には、疲労の色を隠しきれない教員たちの姿が並んでいる。


 無理もない。


 準備期間から今日まで、誰もが自分の仕事を抱えながら、生徒たちの安全と学園祭の運営に尽力してくれたのだ。


 特に今年は、想定外の出来事も多かった。


 それでも誰一人として持ち場を放棄することなく、その時々で最善を尽くしてくれた。


 学園長として、これほど心強いことはない。


 だからこそ、今日くらいはきちんと言葉にして伝えておきたかった。


 ありがとう、と。


 「打ち上げの前に、生徒達の手伝いやら後夜祭の準備やら、まだ色々と残っているだろうからね。とりあえず、一旦ここで解散としようか」


 教員たちから、僅かに安堵の空気が漂う。


 ……とはいえ。


 まだ完全に仕事が終わったわけではない。


 学園祭の後片付けも残っているし、生徒たちだけで行われる後夜祭の準備もある。


 教員だけの打ち上げについても予定しているが、そこへ向かうにはもう少しだけ仕事を片付けなければならない。


 「あっ、そうだ。コールスタッシュ先生は、少しだけ残っておいてくれるかい? 頼みたいことがあるんだ」


 「うげっ!? またかよ!?」


 露骨に嫌そうな声が返ってきた。


 思わず苦笑してしまう。


 「そんな顔をしなくてもいいじゃないか。ほんの少しだよ」


 「その『ほんの少し』が信用できねぇんだよ……」


 「ははは。まあ、そう言わずに」


 こうして教員たちは一度解散となり、コールスタッシュ先生だけが渋々その場に残ることになった。


 さて。


 私もまだやるべきことは残っている。


 その一つを片付けるために、ライラック先生へ視線を向ける。


 「理事長。これ、渡しておきますね」


 「ん?」


 差し出されたのは、小さな一枚の記憶媒体だった。


 「……ああ。ありがとう、ライラック先生」


 受け取ったそれを指先で持ち上げる。


 これはSDカードと呼ばれる魔道具だ。


 正確には、映像を記録し、保存するための記憶媒体。


 昨年、我が校の生徒であるソンジ・マートス君が、映像機器と合わせて開発したものだ。


 初めて見た時も思ったが、こうして改めて手に取ってみると、本当に小さい。


 これほど小さな魔道具の中に、映像という膨大な情報を保存できる。


 魔法技術というものは、本当に奥が深い。


 「今年の魔闘祭の試合映像が全部入っています。後で整理して保管しておいてください」


 「分かった。これなら、生徒達の活躍をいつでも見返せるね」


 今回、このSDカードには魔闘祭の試合映像が記録されている。


 単なる記録映像ではない。


 生徒たちがこの学園で何を成し遂げたのか。


 どんな戦いを繰り広げ、どんな経験を積み、どんな成長を見せたのか。


 それらを後世へ残すための、大切な記録なのだ。


 学園という場所は、毎年新しい生徒を迎え入れる。


 そして、卒業していく生徒を見送る。


 その繰り返しだ。


 だからこそ、過去の出来事を形として残すことには意味がある。


 いつか何十年、何百年という時が流れた後。


 この映像を見た誰かが、


 「この年には、こんな生徒たちがいたのか」


 そう思ってくれれば、それだけでも十分に価値があるだろう。


 それにしても――。


 こんなミクロサイズの魔道具一つで、学園の思い出を残せるようになるとは。


 マートス君の発想力と技術力には、未だに驚かされる。


 若いというだけで可能性を決めつけてはいけない。


 彼女を見ていると、改めてそう思わされる。


 ライラック先生と別れた後、私はしばらくコールスタッシュ先生と話をした。


 やがて話を終えると、私は預かったSDカードを手に理事長室へと向かった。


 廊下を歩きながら、ふと窓の外を見る。


 そこには、まだ学園祭の余韻を楽しむ生徒たちの姿があった。


 笑い声。


 友人同士で語り合う声。


 今日の出来事を興奮気味に振り返る声。


 その光景を眺めながら、私は小さく息を吐いた。


 ――終わったのだ。


 今年の学園祭が。


 大変なこともあった。


 頭を抱えたくなるような問題もあった。


 それでも最後には、生徒たちが笑っている。


 それだけで、学園長として肩の荷が少し降りたような気がした。


 ……さて。


 感慨に浸っている場合ではない。


 まだ後夜祭も残っているし、その後には教員たちとの打ち上げも待っている。


 そして何より、この学園には明日も生徒たちがやって来る。


 今日が終われば、また明日が始まる。


 私は手の中の小さなSDカードを見つめ、それを大切に握り直した。


 今年の思い出を、ここへ残すために。


 私は理事長室へと足を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。