第11章ーおまけ8
「ふぅ。食った食ったー!」
学園祭二日目。
俺は一人、学園祭を満喫していた。
……とはいっても、今さっき別のクラスの出し物で飯を食ってきただけなんだけどな。
いやぁ、学園祭ってのはいい。
普段とは違う雰囲気。
いつもは教室で顔を合わせるだけの連中が、今日は店員になったり、呼び込みをしたり、普段とは違う格好をしてたりする。
それだけでも結構楽しいもんだ。
何より――。
「可愛い女の子が多い!」
これが一番デカい。
本当なら俺も、可愛い女の子達とキャッキャッ騒ぎながら飯でも食って、青春ってやつを謳歌したかった。
……まあ、現実は一人なんだけど。
「くっ……」
思わず拳を握る。
いや、別に寂しくなんかない。
断じて。
初日には結構楽しんだしな。
それに今日は、これから予定がある。
そのために、わざわざ時間を空けているのだ。
……そう考えれば、別に女の子達と遊べなくても問題ない。
問題ないったら問題ない。
「さて……っと」
店を出た俺は、廊下を歩きながらポケットから飴を取り出す。
口に放り込んで、コロコロと転がした。
続いて、反対の手に持っていた消臭スプレーを自分の服へ吹きかける。
シュッ。
「よし」
食べ物の匂いが服に染み付いていたら、あとで色々と困るからな。
口臭だってそうだ。
モテる男たるもの、こういうところは抜かりなくしないといけない。
「……ふっ」
自分で言っていて、我ながら完璧だと思う。
「やっぱ俺って、モテる男の鏡だな!」
誰も聞いていないのをいいことに、堂々と自画自賛する。
……まあ、現実には俺の横を歩いている女の子は一人もいないんだけど。
「…………」
気にしない。
気にしたら負けだ。
俺はそんなことを考えながら、服の匂いを確認する。
鼻を近づけて――。
「……うん。大丈夫」
問題なし。
これなら目的地に行っても、飯を食ってきたことはバレないだろう。
「んじゃ、行きますか」
気持ちを切り替え、俺は歩く速度を少しだけ上げた。
目的地は決まっている。
やることも決まっている。
あとはそこへ向かうだけだ。
……とはいえ。
「…………」
歩きながら、つい後ろを振り返ってしまう。
聞こえてくるのは、あちこちから響く笑い声。
「いらっしゃいませー!」
「こっち空いてるよー!」
「次はあっちの店行こうぜ!」
学園祭を楽しむ生徒達の声。
そのどれもが、なんだか妙に楽しそうに聞こえる。
俺だって、もっと遊びたい。
魔闘祭だって気になる。
今頃どうなってるんだろうな。
サダメはちゃんと戦えてるのか。
マヒロちゃんやミオちゃんの戦いはどうなったのか。
……気になる。
めちゃくちゃ気になる。
「…………」
足が、ほんの少しだけ止まりそうになる。
――見に行きてぇ。
正直、それが本音だった。
せっかくの学園祭だ。
こんな機会、そう何度もあるわけじゃない。
だったら、今くらい遊んだって――。
「ッ!?」
そこで俺は、ハッとした。
「いっけね!」
危うく目的を忘れるところだった。
俺には、これからどうしてもやらなきゃならないことがある。
遊びたい気持ちはある。
魔闘祭も見たい。
学園祭だって、もっと楽しみたい。
でも――。
「……駄目だ」
俺は小さく呟いた。
これだけは、絶対にやらなきゃならない。
誰かに頼まれたからでもない。
褒められたいからでもない。
自分がそうすると決めたからだ。
だから――。
「今は、こっちだ」
名残惜しさを振り切るように、俺は前を向く。
そして、目的地へ向かって再び歩き始めた。
背後から聞こえてくる学園祭の喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。
それでも俺は振り返らない。
今だけは。
遊びたい気持ちよりも、優先しなきゃならないことがある。
「…………」
……まあ。
全部終わったら、戻ってきてもいいよな?
そんな淡い期待を胸の片隅に残しながら。
俺は、一人。
誰も知らない目的地へ向かって歩みを進めていった。




