第11章ーおまけ4
学園祭一日目。
午前中に自分たちの仕事を無事に終え、午後からはミオ達と一緒に、他クラスの出し物を見て回っていた。
普段の授業とは違い、校内はいつも以上に賑やかだ。
廊下には生徒だけじゃなく、学園祭を見に来た保護者や外部の人たちも大勢いる。
あちこちから笑い声や呼び込みの声が聞こえ、普段とはまるで違う学園の雰囲気に、俺自身もなんだか浮かれていた。
――そんな時だった。
「もし。ちょっと宜しいかな?」
「はい?」
突然、廊下で声を掛けられた。
聞き覚えのない声だったので、足を止めて振り返る。
そこに立っていたのは――二人の老紳士だった。
どちらも年齢は五十代か、それ以上だろうか。
身なりは非常に整っていて、上質そうな服に身を包んでいる。
学園祭という場所を考えれば、貴族学校側の生徒の保護者だろうか。
もしかすると、自分の子供が参加しているクラスの場所が分からず、案内を求めているのかもしれない。
そう考えながら、俺は軽く頭を下げた。
「何かご用ですか?」
すると。
「君、サダメ・レールステン君で間違いないかい?」
「ッ!?」
一瞬、言葉に詰まった。
「はい……そう、ですけど」
自分の名前を知っている。
ただそれだけのことなのに、妙な違和感を覚えた。
学園の生徒や先生ならともかく、こんなところで面識のない老人からいきなり名前を呼ばれるとは思っていなかった。
しかも――。
「……」
二人の雰囲気が、どうにも普通じゃない。
王族とまではいかない。
それでも、見るからにかなり高い身分にありそうな立ち居振る舞いだ。
そんな人たちと、俺が知り合いなわけがない。
じゃあ、一体どうして俺の名前を知っている?
そして、何の用だ?
「いきなり話しかけてしまって申し訳ないね」
俺が警戒していることに気付いたのか、一人の老紳士が穏やかな笑みを浮かべる。
「私はグッド・ドニーエル。こちらはリーズ・ブリフェッサだ」
「は、はあ……」
名乗られたので、とりあえず会釈を返す。
……駄目だ。
やっぱり聞き覚えがない。
少なくとも、俺の知っている人物ではない。
「私たちの息子、バッド・ドニーエルとロンド・ブリフェッサの件で、君にどうしても話したいことがあってね」
「…………?」
「バッド……?」
「ロンド……?」
その名前を聞いて、俺は首を傾げた。
なんとなく聞いたことがあるような気はする。
だけど、誰だったかまでは思い出せない。
「……すみません。どこかでお会いしましたっけ?」
「いや、直接会うのは初めてだよ」
「ですよね……」
なら、どうして俺に?
ますます意味が分からない。
俺が困惑していると――。
「サダメ。どうかしたの?」
後ろから聞き慣れた声がした。
振り返ると、そこにはミオが立っていた。
「ああ、ミオ。いや、ちょっと俺に話があるみたいで」
「話?」
ミオも二人の老紳士へ視線を向ける。
その瞬間だった。
「ああ……そうか」
グッドさんが何かに気付いたように頷いた。
「名前だけでは思い出せないか」
「え?」
「無理もない。あれから随分と時間も経っているからね」
そう言うと、グッドさんは懐へ手を入れた。
「だったら、これを見てもらった方が早いだろう」
取り出したのは、一枚の写真だった。
「こちらに見覚えはないかね?」
そう言って、俺たちの前へ差し出してくる。
俺は何気なく写真へ視線を落とした。
そして――。
「…………」
一瞬。
頭の中が真っ白になった。
「……あっ!?」
次の瞬間。
記憶が一気に蘇った。
写真に写っていたのは――。
太った男。
そして、その隣に立つ細身の男。
「こいつら……!」
思わず声が漏れた。
見覚えがある。
いや――見覚えがあるどころじゃない。
忘れるはずがなかった。
入学試験の前日にミオへしつこく声を掛けてきたあの太っちょと細身の男達。
そして――。
俺を殺そうとしてきた奴等だ。




