第11章ーおまけ3
一時間後。
事前の放送通り、魔闘祭の表彰式が始まった。
拙者は今、闘技場の中央に設置された表彰台――いや、正確には四人分の順位に合わせて凹凸のついた高台の上に、一人ぽつんと立っている。
周囲を見渡してみても、当然ながら誰もいない。
観客席には大勢の人がいるというのに。
表彰台の上だけが、妙に寂しい。
「ごめんね。本当は四人乗る予定だったんだけど、三人ともまだ動けそうにないみたいで」
そう言いながら、拙者の前に立つのはライラック殿。
どうやら本来の表彰式では、準決勝まで勝ち残った四名をそれぞれ表彰する予定だったらしい。
「むうぅ……」
拙者が準決勝で戦ったクリス殿も、未だに気絶したままらしい。
つまり。
ここにいるのは――拙者一人。
「…………」
改めて周囲を見る。
誰もいない。
四人で立つはずだった表彰台に、拙者だけがぽつんと立っている。
……なんとも味気ない。
「むうぅぅ……」
思わず頬を膨らませる。
「最後の最後まで、煮え切らぬでござるな……」
魔闘祭が始まる前。
拙者は、この舞台で全力を出して戦うことを楽しみにしていた。
そして実際、何度も死力を尽くして戦った。
それは間違いない。
準決勝ではクリス殿と刃を交え、互いに一歩も引かぬ戦いをした。
その先には――サダメが待っているはずだった。
だからこそ。
今、こうして一人で表彰台に立っていることが、どうにも腑に落ちぬ。
「ま、まあ……」
ライラック殿が困ったように笑う。
「君は来年もあるわけだし、その不完全燃焼は一年持ち越しってことで」
「ぬぬぬ……」
一年。
その言葉を聞いた瞬間、さらに頬が膨らんだ。
「一年も待てというのでござるか?」
「え?」
「このもやもやを抱えたまま、一年も待てというのでござるか!?」
「いや、まあ……そういうことになるかな?」
「御免被る!」
即答した。
ライラック殿が苦笑する。
だが、拙者は本気でござる。
一年後の魔闘祭まで待てばいい。
頭ではそう理解している。
しかし――それとこれとは話が別だ。
サダメと戦いたい。
今すぐにでも。
万全な状態のサダメと、真正面から戦って。
勝っても負けても、最後には互いに笑えるような、そんな決着をつけたい。
それなのに。
「はい、これで優勝者の表彰ね」
「むう……」
ライラック殿はそんな拙者の気持ちを知ってか知らずか、表彰用の金貨がいくつも装飾された首飾りを取り出した。
そして――
「おめでとう、トーエン君」
「…………」
首に掛けられる。
ずしり。
思っていたよりも重い。
優勝者の証。
魔闘祭を制した者だけが手にすることのできる、立派な勲章でござる。
普通なら、飛び上がるほど嬉しいはずなのだろう。
だが。
「…………」
拙者は、その首飾りを指先で摘まんだまま眺める。
嬉しくないわけではない。
これまで鍛錬してきた成果が認められたのだ。
この結果を誇りに思う気持ちもある。
けれど――。
「……やはり、嬉しくないでござる」
「そ、そっかぁ……」
ライラック殿も、困ったように眉を下げる。
その時だった。
『今回は色々と波乱を呼ぶ展開となりましたが――!』
闘技場全体に、実況のヒューズ殿の声が響き渡る。
『そんな波乱を制した、マヒロ・トーエン選手に――盛大な拍手を!!』
直後。
ワアアアアアアアアッ!!
会場が大きく沸いた。
観客席から一斉に拍手が巻き起こる。
「…………」
その音に、拙者は少しだけ目を見開いた。
こんなにも大勢の人が、自分のために拍手をしている。
そう考えると、胸の奥が少しだけ熱くなる。
「……ありがとう、ござる」
小さく頭を下げる。
拍手はさらに大きくなった。
拙者はその音を聞きながら、首に掛けられた金貨の首飾りを握りしめる。
――魔闘祭、優勝。
結果だけを見れば、文句のつけようがない。
だが。
拙者の中では、まだ終わっていない。
サダメとの決着をつけていないからだ。
ならば――。
「次こそは、絶対に戦うでござるよ」
誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟く。
その言葉は、観客の歓声に紛れて消えていった。
こうして。
拙者は、魔闘祭の優勝者となった。
大勢の観客から祝福され。
優勝者の証をその身に受け。
誰もが、この大会は無事に幕を閉じたと思ったことだろう。
けれど――。
拙者にとっては、まだ始まったばかりでござる。
この胸に残った悔しさも。
サダメと戦えなかった無念も。
全部、次に会った時へ持っていく。
その時こそ――。
「絶対に、負けぬでござる」
そう心に誓いながら。
拙者の魔闘祭は、不完全燃焼のまま幕を閉じたのであった。




