第11章ーおまけ
準決勝第二試合が終わって、数分後。
拙者はフィー殿と共に、医務室へと駆けていた。
「サダメ!! 無事でござるか!?」
勢いよく扉を開け、開口一番にその名を叫ぶ。
だが――
「しーっ!?」
すぐさま、医務室にいたミオから人差し指を口元に当てるようにして注意された。
「他の人もいるから、静かにして」
「う、うむ……すまぬ、ミオ」
言われて初めて気付く。
そういえば、ここは医務室。
サダメ以外にも怪我人や治療を受けている者がいるのだ。
試合の興奮が冷めきらぬまま飛び込んできたせいで、そんな当たり前のことすら頭から抜け落ちていた。
反省しつつ、改めて室内へ視線を向ける。
そして――
「……」
拙者の視界に、寝台の上で眠るサダメの姿が映った。
目立った外傷はない。
呼吸も穏やかで、小さな寝息を立てながらぐっすりと眠っている。
どうやら、治療自体はすでに終わっているようでござるな。
「……良かった」
思わず、胸を撫で下ろす。
正直に言えば、ここへ来るまでずっと不安だった。
試合終了の直後、サダメはその場で意識を失った。
あれほど激しい戦いだったのだ。
アラガ殿の魔導結界を一人で攻略し、最後には見たこともない真紅の鎧まで身に纏っていた。
あの姿を見た時は驚いた。
いや、驚いたなどという言葉では足りぬ。
あれはまるで――別人のようだった。
それほどまでに凄まじい力を引き出したのだ。
無事であるという保証など、どこにもなかった。
だからこそ。
こうして何事もなく眠っている姿を見られただけで、拙者は心の底から安心していた。
「さっき治療が終わったばかりだよ」
ミオが声を落としながら教えてくれる。
「今のところ、特に問題はないみたい。後遺症とかもなさそうだって」
「そうでござるか……それは本当に良かったでござる」
ミオの言葉に、再び安堵する。
拙者とフィー殿はサダメの寝台の近くに椅子を並べ、腰を下ろした。
しばらくは、ただサダメの寝顔を眺めていた。
やはり疲れているのでござろうな。
これだけ近くに人がいるというのに、目を覚ます気配すらない。
だが、それも無理からぬ話でござる。
先ほどの試合――。
サダメとアラガ殿の戦いは、あまりにも過酷だった。
魔導結界。
あれがどれほど厄介なものなのかは、拙者達も身をもって知っている。
周囲の環境そのものを敵に変え、相手を追い詰める恐ろしい力。
しかも今回、サダメはそれをたった一人で攻略せねばならなかった。
極寒の世界。
視界を奪う猛吹雪。
そして、その中で待ち構えるアラガ殿。
想像するだけでも過酷である。
体力も。
魔力も。
精神力も。
おそらく、その全てを限界まで削られたのであろう。
最後に意識を失ってしまったとしても、何ら不思議ではない。
「しかし……」
改めてサダメの姿を見つめる。
「サダメが、あのようなものを隠していたとは驚きでござるな」
あの真紅の鎧。
炎を纏い、空を駆け、凄まじい一撃を放った姿。
あれほどの力を持っていたとは、正直まったく知らなかった。
すると、隣に座るミオが苦笑する。
「うーん……でも、サダメのことだから、土壇場で思いついたんじゃない?」
「む……そうかもしれぬな」
たしかに、サダメならやりかねぬ。
窮地に追い込まれれば追い込まれるほど、常識では考えられぬ方法を思いつく男でござるからな。
しかし――それでも。
「あの鎧の性能……拙者も、直に試してみたいでござるな」
気付けば、そんな言葉が口から出ていた。
「え?」
ミオがこちらを見る。
「もしかして……戦いたいってこと?」
「無論!」
即答する。
サダメの無事が確認できた今、話は別でござる。
あれほどの力を持つ者と戦える機会など、そうそうあるものではない。
それに――
「決勝戦、拙者もあの姿のサダメと手合わせ願いたいでござるよ!」
胸の奥が高鳴る。
どれほど強くなったのか。
あの鎧には、どれほどの力が秘められているのか。
そして何より――
今のサダメと、拙者が全力で斬り結んだら、一体どのような戦いになるのか。
想像するだけで、身体の奥から熱が湧き上がってくる。
その時、フィー殿がぽつりと呟いた。
『あっ……そうか。サダメ君が勝ったってことは、決勝はマヒロちゃんとサダメ君なんだ』
「そうでござるよ!」
拙者は思わず胸を張る。
「サダメには申し訳ござらんが、無事と分かれば話は別! 試合では決して気を抜かぬでござるよ!」
「マヒロ、だからもうちょっと声落として」
「む……」
またしてもミオに注意される。
どうやら、拙者は少々興奮しすぎていたらしい。
しかし、仕方がないではないか。
この大会の最後を飾るのは――
拙者とサダメ。
そう考えれば、胸の高鳴りを抑えろという方が無理な話でござる。
サダメの新たな力。
あの真紅の鎧。
それを、この身で確かめてみたい。
できることなら――
あの力を、拙者に全力でぶつけてほしい。
そんなことを考えていた、その時だった。
「……あー、そのことなんだけどー……」
背後から、妙に歯切れの悪い声が聞こえてきた。
「?」
拙者達が一斉に振り返る。
そこに立っていたのは、一人の黒髪の女性だった。
見覚えがある。
たしか、医療班の者でござったな。
拙者自身、一回戦の後に治療してもらった覚えがある。
だが――
「……」
どうにも様子がおかしい。
どこか申し訳なさそうな表情。
こちらをまっすぐ見ようとせず、言葉を選ぶように視線を泳がせている。
その態度を見た瞬間。
先ほどまで胸の内を満たしていた高揚感が、ほんの少しだけ薄れた。
「何かあったのでござるか?」
問い掛ける。
女性は一度だけサダメへ視線を向けた。
そして――
「彼、試合出れないから」




