第11章ー115
「どうした、レールステン!? これでおしまいに……するんじゃ……なかったのか!?」
吹雪の中から、アラガの怒鳴り声が響き渡る。
「ッ!?」
思わず身体が反応した。
俺がアラガへ近づく方法を模索している間にも、奴は一歩もその場から動かず、ただ荒れ狂う吹雪を維持し続けている。
まるで、俺がこの防壁を突破できないことを確信しているかのように。
「俺と対等に……戦えると……思ったか!? はあ……はあ……な……めるなよ!」
その声には、明らかな苛立ちが滲んでいた。
息もかなり荒い。
さっきまでの余裕はない。
それでも、俺を挑発するだけの気力は残っているらしい。
「……」
だが、そこで俺は妙な違和感を覚えた。
アラガの視線だ。
奴は確かに俺へ向かって怒鳴っている。
なのに、その目は――俺がいる上空を見ていなかった。
視線の先にあるのは、誰もいない正面。
「……まさか」
俺は空中で旋回しながら、わずかに高度を変える。
それでも、アラガの視線は動かなかった。
右へ移動する。
左へ移動する。
さらに上へ。
それでも奴は、俺を目で追おうとしない。
「……見えてないのか?」
思わず呟いた。
確かに、この吹雪では視界が悪い。
白い雪が絶え間なく舞い続けているせいで、数メートル先ですらまともに見えない。
だが、それは俺も同じだ。
ましてや、アラガは魔眼を使っている。
普通の視力とは違う方法で相手を捉えているはずだ。
こんな程度の吹雪で、俺を完全に見失うものなのか?
それとも――。
レイジ先輩との戦いの時みたいに、敢えて視線を向けないようにしている?
……いや。
違う。
俺はすぐに、その可能性を否定した。
これは、そういう目じゃない。
アラガは本当に俺を見失っている。
「……魔眼の影響か」
そう考えれば、全部説明がつく。
以前から、あの右目には相当な負担が掛かっているように見えていた。
それが、ここまで魔眼を酷使したことで限界に近づいている。
いや――。
もしかしたら、もう限界を超え始めているのかもしれない。
あれだけの吹雪を維持しながら、魔眼まで使い続けているんだ。
身体への負担が尋常じゃないことくらい、想像がつく。
「……」
俺はアラガを見下ろす。
荒い呼吸。
ふらつきかける身体。
そして、俺を捉えられていない右目。
さっきまでなら、勝つことだけを考えていた。
だが、今は違う。
このまま戦い続ければ――。
「……こいつ、俺以上に危ないんじゃないか?」
自分でも驚くほど、冷静な言葉が口から零れた。
俺だって、この吹雪の中で相当身体を酷使している。
太陽の魔力を使い、背中から炎を噴射して空を飛び、【上限解放】まで使っている。
身体がいつまで持つかなんて、俺自身にも分からない。
それでも、アラガはその上を行っている。
魔眼という、本来なら自分自身を蝕みかねない力を限界まで引き出しながら、これだけの魔導結界を維持している。
もし、このまま無理を続けたら――。
「……マズいな」
本格的に時間がなくなってきた。
俺が凍りつく前に決着をつけなきゃならない。
同時に、アラガの身体が限界を迎える前にも終わらせなければならない。
だったら、なおさら急がないといけない。
「……どうする?」
焦りを押し殺しながら、俺は再びアラガの周囲を旋回する。
真正面から突っ込む。
――駄目だ。
吹雪に押し返される。
遠距離から魔法を撃つ。
――これも駄目。
この風圧じゃ、まともに届くか分からない。
だったら、吹雪そのものを消す?
――そんなことができるなら、とっくにやっている。
「くそ……!」
手詰まりだ。
せっかくアラガの身体が限界に近づいていると分かったのに、肝心の俺には奴へ攻撃する手段がない。
このままじゃ、何も変わらない。
ただ時間だけが過ぎていく。
その間にも身体はどんどん冷えていくし、アラガだって魔眼に蝕まれていく。
「せめて、この雪さえ晴れてくれれば……」
思わず、そんな言葉が口から漏れた。
雪さえ晴れれば。
視界さえ開ければ。
そうすれば、アラガの位置を正確に捉えられる。
そうすれば――。
「……ん?」
その瞬間。
頭の中で、何かが引っ掛かった。
雪を晴らす。
俺はゆっくりと上空を見上げる。
荒れ狂う白銀の世界。
そして、その中心にいるアラガ。
炎で焼き払う。
風圧を上回る。
正面から無理なら、別の方向から攻める。
だが――。
「……そうか。その手があったか!」
思わず声が大きくなる。
さっきまで頭の中を覆っていた焦りが、一気に晴れていく。
まだだ。
まだ俺には、やれることが残っている。
太陽の魔力。
そして――この吹雪。
上手くいく保証なんてない。
失敗すれば、俺自身がどうなるか分からない。
それでも。
「……これなら」
俺は眼下のアラガを見据える。
奴を助けられる。
そして、この絶望的な状況もひっくり返せる。
「まだ……勝負は終わってない!」
背中の太陽の紋様へ魔力を送り込む。
再び、身体の奥で熱が生まれ始めた。
この吹雪を、俺の力で変えてやる。




