第11章ー114
「はあっ!」
背中から炎を噴射し、その勢いで一気に加速する。
目指すは、吹雪の中心に立つアラガ。
地面を蹴って走るよりも、空中から一直線に距離を詰めた方が速い。そう判断した俺は、背中に刻まれた太陽の紋様とは別に、ジェットパックの噴射口を思わせる機構を取り付けていた。
炎を噴き出し、その推進力で身体を宙へと押し上げる。
父は足から炎を噴射していたような気がするが、俺としてはこちらの方が使い勝手がいいと思った。少なくとも、空中で方向転換するなら背中から噴射した方が圧倒的に扱いやすい。
……まあ、こんな無茶苦茶な魔改造を自分でやることになるとは思わなかったけどな。
ともあれ、今はそんなことを考えている場合じゃない。
アラガとの距離を詰めながら、俺は次の攻撃のために詠唱を始める。
「天を巡る万光よ、我が身に――」
狙うのは、一撃必殺。
この猛吹雪の中で中途半端な攻撃を仕掛けても、威力を削がれる可能性が高い。
だったら、最初から全力を叩き込む。
俺が選んだのは、燦光爆拳。
太陽の魔力を拳へと集中させ、爆発的な威力を叩き出す魔法。
これなら、たとえ多少吹雪に阻まれたとしても、アラガへ致命傷を与えられるはず。
そう考えていた。
――その瞬間までは。
「うぉわっ!?」
突然、前方から猛烈な風圧が叩きつけられた。
「なっ――!?」
身体が一瞬で押し返される。
背中から噴射していた炎でも勢いを殺しきれず、そのまま後方へと吹き飛ばされてしまった。
くそっ!
近づけない!?
咄嗟に姿勢を立て直し、炎を噴射して空中で停止する。
だが、目の前に広がるのは、先ほどまでとは比較にならないほど荒れ狂う吹雪だった。
白い。
何も見えない。
ただ猛烈な風と雪が、俺の進路を阻むように吹き荒れている。
太陽の炎を纏っているというのに、それすらも掻き消されてしまうほどの風圧。
「……マジかよ」
思わず呟く。
詠唱途中だった魔法も、風圧に耐え切れず中断されてしまった。
幸いだったのは、完全に魔法が発動する前に消えたことだ。
失敗による反動はない。
だが、それを喜んでいる余裕なんてなかった。
この吹雪……。
ミオの風魔法と同等――いや、それ以上の威力がある。
しかも、ただ風が強いだけじゃない。
吹雪そのものが、アラガへ近づくことを許さない巨大な防壁と化している。
まるで、氷の壁が何重にも重なって立ちはだかっているようだ。
いや……。
氷の壁より厄介だ。
氷なら破壊すれば道が開く。
だが、この吹雪には終わりがない。
進もうとすれば押し戻され、炎を強めれば雪と風に掻き消される。
まるで、近づくことそのものを拒絶されているような感覚だった。
「くそ……!」
俺は歯を食いしばりながら、さらに炎を噴射する。
だが――。
「う゛っ!?」
炎が弱まった。
しまった!
吹雪に意識を取られている間に、背中から噴射していた炎まで消えかけている。
このままじゃマズい。
さっきと同じだ。
炎が消えれば、身体がこの極寒に晒される。
そして――凍る。
「まだだっ!」
慌てて背中へ魔力を集中させる。
太陽の紋様が、三度目の回転を始めた。
「【上限解放・弎】!!」
直後、背中から爆発的に炎が噴き出した。
「――ッ!」
強烈な推進力に身体が押し上げられる。
今度はアラガへ向かうのではなく、真上へ。
吹雪の流れに逆らうように一気に高度を取り、なんとか距離を確保する。
……危なかった。
あと少し遅れていたら、また身体を凍らされていた。
空中で姿勢を安定させながら、俺は荒い息を吐く。
「……これは、想像以上にマズいことになったぞ」
思わず本音が漏れた。
正直、アラガの本気を侮っていた。
魔眼を使ったことで魔力量が増えたとはいえ、俺だって以前とは違う。
太陽の魔力を使えるようになった。
身体への負担は大きいが、飛行だってできるようにした。
だから――。
これなら、ようやく対等に戦える。
そう思っていた。
だが、現実は違った。
アラガは、俺が想像していた以上に強い。
しかも厄介なのは、単純な火力だけじゃない。
あの吹雪そのものが、攻撃であり、防御でもある。
俺がアラガへ近づこうとするだけで、吹雪が俺を弾き飛ばす。
なら、遠距離から攻撃すればいい。
……いや、駄目だ。
この吹雪を突破できなければ、炎の魔法だって届く保証がない。
だったら、吹雪そのものを消す?
無理だ。
あれだけ広範囲に展開された魔導結界を、俺一人の魔力でどうにかするなんて現実的じゃない。
「くそ……。どうする?」
俺はアラガの上空を大きく旋回しながら、必死に頭を回転させる。
近づけない。
遠距離攻撃も通るか分からない。
しかも、ここで時間を掛ければ掛けるほど、俺の身体はこの極寒に蝕まれていく。
つまり――長期戦は論外。
なら、やるべきことは一つ。
この吹雪の防壁を突破して、アラガへ一撃を叩き込む。
問題は、その方法だ。
「……どうやって攻略する?」
眼下では、吹雪が渦を巻いている。
その中心に、アラガがいる。
まるで、巨大な氷の城の王のように。
俺はその光景を睨みつけながら、必死に突破口を探す。
炎を掻き消すほどの吹雪。
正面から突っ込めば、確実に弾き返される。
なら――。
正面以外なら?
上から?
下から?
あるいは、吹雪そのものを利用する?
考えろ。
何かあるはずだ。
このままじゃ、勝てない。
俺は旋回を続けながら、アラガの周囲を覆う白銀の世界を観察する。
――この絶望的な状況をひっくり返すための、たった一つの方法を探しながら。




