第11章ー116
「【上限解放・肆】!」
突破口を見出した俺は、迷うことなく四度目の解放を行う。
背中に刻まれた太陽の紋様が回転し、鎧の奥に蓄積されていた魔力が一気に解放されていく。
「……ッ!」
その瞬間、身体の奥から熱が込み上げてきた。
熱い。
今までとは明らかに違う。
鎧に溜め込まれた太陽の魔力が、ついに地肌にまで伝わり始めている。
まるで、全身を巨大な炉の中へ放り込まれたような感覚だ。
「……流石に四回目ともなると、キツいな」
歯を食いしばりながら呟く。
ここまで来ると、身体の外側だけじゃない。
内側からもじわじわと熱が侵食してくる。
この状態で最後の一段階――伍まで解放したら、一体どうなる?
鎧が耐えられるのか。
それとも、先に俺の身体が限界を迎えるのか。
……正直、試してみる気にはなれなかった。
少なくとも、今は。
「――降り注げ、天つの光よ!」
そんな考えを頭の隅へ追いやり、俺は右手を天高く掲げる。
まだやることがある。
ここで余計なことを考えている暇なんてない。
「荒れ狂いし天地に、光源たる陽を照らせ!」
詠唱を続ける。
右手の上に、淡い光が集まり始めた。
最初は小さな光の粒だった。
それが一つ、また一つと集まり、次第に密度を増していく。
やがて、俺の右手には一つの光球が形成された。
眩しい。
だが、ただ眩しいだけじゃない。
その光には、確かな熱が宿っている。
「全てを燃やし、全てを溶かし、全てを浄化する!」
これは、ただの光魔法じゃない。
光に太陽の魔力を宿す。
太陽そのものが持つ熱と光を魔法として再現する。
言うなれば――陽光魔法。
炎とは違う。
炎は燃えることで熱を生み出す。
だが、太陽はただそこに存在するだけで、光を放ち、周囲へ熱を与え続ける。
ならば。
この猛吹雪を止めるために必要なのは、炎ではなく――太陽そのものだ。
「天啓に坐せ!」
最後の詠唱とともに、俺は右手を突き上げる。
「【天輪太光玉】!!」
完成した光球が、ゆっくりと上空へ浮かび上がっていく。
最初は俺の頭上に浮かんでいるだけだった。
だが、さらに上へ。
さらに高く。
やがて、結界の天井付近まで到達した光球は、まるで小さな太陽のように周囲を照らし始めた。
薄暗かった魔導結界の中が、一気に明るくなる。
「なっ!?」
吹雪の向こうから、アラガの驚愕した声が聞こえた。
当然だ。
これまで俺が何をしても、吹雪は止まらなかった。
炎をぶつけても掻き消される。
正面から突っ込んでも押し返される。
そんな絶対的な防壁が――。
「……溶けてる」
俺自身も思わず呟いた。
光が照らした場所から、雪が消えていく。
舞い上がっていた無数の雪片が、光に触れた瞬間から水へと変わり、次々と地面へ落ちていく。
凍りついていた地面も。
氷の壁も。
吹き荒れていた雪も。
少しずつ、確実にその姿を失っていく。
「そうだ……!」
思わず拳を握る。
これならいける。
炎魔法では駄目だった。
炎は、その場にある氷を溶かすことはできても、この猛烈な風の中では熱が拡散してしまう。
何より、あまりにも風が強すぎる。
炎そのものが吹き飛ばされ、雪へ届く前に消されてしまう。
だったら――光ならどうだ?
光は風に吹き飛ばされない。
どれだけ吹雪が荒れ狂おうと、光そのものが掻き消されることはない。
しかも、ただの光じゃない。
俺が使っているのは、太陽の魔力を宿した光。
圧倒的な光量と熱量を持った、太陽の光だ。
いくら雪が吹き荒れようとも。
いくら風が強かろうとも。
太陽そのものを止めることなんてできない。
「……やっぱり、間違ってなかった!」
徐々に、視界が開けていく。
真っ白だった世界に、少しずつ色が戻ってくる。
そして――。
見えた。
吹雪の中心に立つアラガの姿が、はっきりと。
「……」
奴もまた、こちらを見ていた。
その表情には、隠しきれない驚きが浮かんでいる。
俺はそんなアラガを見ながら、口元を僅かに吊り上げた。
そう。
この魔法の目的は、アラガを攻撃することじゃない。
この結界そのものを覆っている、猛吹雪を止めること。
そして――。
その目的は、見事に達成された。
「よし!」
俺は地上へ向かって降下する。
足元へ炎を噴射しながら高度を落とし、ゆっくりと地面へ着地した。
背後では、天輪太光玉が今も光を放ち続けている。
ただし、長くは持たない。
今の俺の魔力量を考えれば、あの光球を維持できる時間は限られている。
だからこそ――。
ここで決める。
もう、あの吹雪という厄介な防壁はない。
視界も開けた。
アラガの姿も、はっきり見える。
なら、あとは真正面からぶつかるだけだ。
俺はゆっくりと拳を握り締める。
身体は熱い。
魔力もかなり消耗している。
それでも、不思議と身体はまだ動く。
むしろ――。
ようやく反撃できることへの興奮の方が勝っていた。
「……アラガ」
目の前の男を真っ直ぐ見据える。
ここまで散々苦しめられた。
何度も攻撃を防がれた。
何度も吹雪に押し返された。
それでも、ここまで来た。
だから――。
「今度こそ終わらせるぞ、アラガ!!」
声を張り上げる。
これが本当の最後の勝負だ。
次の一撃に、俺の持てる全てを叩き込む。
「この一撃で――ぶっ倒してやる!!」
天輪太光玉が、頭上から俺たちを照らしている。
白銀の世界を覆っていた猛吹雪は、もうない。
残されたのは――俺とアラガ。
そして、この戦いを終わらせるための最後の一撃だけだった。




