第11章ー111
「なん……だと?」
思わず、眉がピクリと動いた。
――俺を止める?
今、こいつは確かにそう言った。
つまり。
俺に勝てるとでも言いたいのか?
「……ふざけるな!!」
気付けば、怒鳴り声が口から飛び出していた。
許せなかった。
何も分かっていないくせに。
自分が置かれている状況すら理解していないくせに、勝てるなどと――。
魔力量が違う。
戦闘経験も違う。
何より、ここは俺の魔導結界の中だ。
この空間そのものが、俺の味方をしている。
冷気が常に奴の身体を蝕み続け、俺は周囲の氷を自由自在に操ることができる。
長期戦になればなるほど、俺が有利になる。
なのに――。
「少し戦えるようになったぐらいで、いきがるな!!!」
叫びながら、地面へ手を叩きつける。
「お前がどれだけ強くなったところで、この結界の中じゃ俺には勝てねえ!」
そうだ。
何も変わっていない。
奴の魔力量が増えたところで、俺には魔導結界がある。
奴がどれだけ強力な攻撃を繰り出そうと、俺は何度でも魔法を使える。
ならば――。
その絶望的な差を、もう一度思い知らせてやる。
「圧し殺せ――【氷柱圧死】!!」
ドゴォォォンッ!!
地面が激しく隆起した。
次の瞬間。
奴を取り囲むように、巨大な氷柱が次々と出現する。
前方。
後方。
左右。
そして――上下。
まるで巨大な檻が形成されていくように、無数の氷柱がサダメの逃げ道を塞いでいく。
「潰れろ……!」
氷柱同士の間隔が、徐々に狭まっていく。
一本一本の太さは、先ほど放った氷槍とは比較にならない。
人間一人を丸ごと押し潰せるほどの質量。
しかも、ただの氷じゃない。
俺の魔力によって極限まで硬度を高めている。
さっきの氷槍を拳で砕いたからといって――。
「こんなものまで、同じように壊せると思うなよ」
逃げ場はない。
前へ進もうが、後ろへ下がろうが、左右へ逃げようが氷柱が待ち構えている。
空へ逃げようとしても、上から氷柱が降りてくる。
そして数秒後には――。
全方向から押し寄せた氷柱によって、奴の身体は完全に潰れる。
これで終わりだ。
そう確信した。
だが――。
「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し――」
「……何?」
聞こえてきた声に、俺は眉を顰めた。
詠唱?
こんな状況で、魔法を使うつもりか?
氷柱はもう奴のすぐ目の前まで迫っている。
逃げる時間なんてない。
それなのに――。
「眼前に現れし標的に、猛る一投を撃ちかけん――」
奴は詠唱を止めない。
「……何をする気だ」
そして。
「【火球】!!」
――ドォォォォンッ!!
轟音が鳴り響いた。
「ッ!?」
凄まじい熱風が、頭上を通り過ぎる。
思わず顔を上げた。
巨大な火球。
それが俺の頭上を掠めるようにして、凄まじい速度で飛んでいく。
「な――」
直後。
――ゴォォォォッ!!
巨大な火球が、氷柱へと直撃した。
氷が一瞬で赤く染まる。
そして――。
バキィィィン!!
巨大な氷柱が、粉々に砕け散った。
「……は?」
理解が追いつかない。
一本。
さらに一本。
火球は進路上に存在する氷柱を次々と破壊していく。
巨大な氷の塊が、まるで紙切れのように吹き飛ばされていく。
「馬鹿な……!」
あれは――。
【火球】。
炎属性の初級魔法。
俺だって知っている。
魔法学園に通っている人間なら、誰でも一度は耳にするような基本的な魔法だ。
なのに。
「なんだ……あの大きさは……」
俺が知っている【火球】とは、まるで違う。
大きさは術者によって多少変化する。
魔力を多く込めれば、威力を上げることだってできる。
だが――。
あそこまで巨大な火球を見たことはない。
巨大な炎の塊が、残った氷柱を次々と破壊していく。
まるで炎そのものが意思を持っているかのように、一直線に突き進んでいた。
「……あれが、初級魔法だと?」
理解できない。
魔法の種類は同じ。
詠唱も同じ。
なのに、どうしてここまで違う?
「まさか……」
視線を炎の向こうへ向ける。
そして――。
「……!」
崩れ落ちる氷柱の隙間から、人影が現れた。
真紅。
炎。
そして――太陽。
サダメ・レールステン。
奴は、ゆっくりとこちらへ姿を現した。
「アラガ」
「……」
その声に、身体が僅かに強張る。
「悪いけど、これでおしまいにしよう」




