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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

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第11章ー106

 脳裏に浮かんだのは、あの日に見た父の姿だった。


 前面には獅子の頭を模した装飾。


 背中には、太陽を思わせる紋様。


 炎を連想させる鮮やかな赤色に染められた、あの鎧。


 ――緋色の鎧。


 エイシャとの戦いで、父が一度だけ見せた姿だ。


 「……」


 父が死んだことがあまりにもショックだった。


 だから、あの戦いの記憶はほとんど残っていないと思っていた。


 残っていたのは、ただ一つ。


 父が纏っていた、あの赤い鎧の姿。


 幼かった自分にとって、それだけがあまりにも強烈だったのだ。


 だが――。


 あれから十年。


 長い年月が経った今になって、不思議と少しずつ記憶が蘇ってくる。


 父は、あの鎧を纏った瞬間――明らかに別人のような動きをしていた。


 「……そうだ」


 狭い空間だった。


 だからこそ、父はその地形を最大限に利用していた。


 壁を蹴り、地面を踏み抜き、相手の死角へと一瞬で回り込む。


 その動きは、まるで人間のものではなかった。


 あの頃は、それが父だからできることなのだと思っていた。


 だが。


 今の自分なら分かる。


 「……あれ、生身でできる動きじゃねえよな」


 思わず呟く。


 自分だって、これまで何度も身体能力を限界まで引き上げてきた。


 魔力で身体を強化し、炎を纏い、無理やり身体を動かしたことだってある。


 だからこそ、分かる。


 あの動きは異常だった。


 炎の魔力を最大出力まで引き出しながら、身体を完全に制御していた。


 普通なら、魔力の出力に肉体が耐えられない。


 筋肉が千切れる。


 骨が砕ける。


 内臓にまで負荷が掛かる。


 それでも父は、何事もなかったかのように動いていた。


 まるで――。


 身体そのものが、強大な魔力に耐えられるようになっていたかのように。


 「……まさか」


 そこで、一つの可能性が浮かんだ。


 あの鎧。


 あの緋色の鎧が、父の身体を守っていたのではないか?


 単なる防具じゃない。


 攻撃から身を守るためだけの鎧でもない。


 装着者の魔力を増幅し、その出力に肉体が耐えられるよう補助する。


 あるいは――。


 魔力そのものを制御して、装着者の身体へ掛かる負担を軽減する。


 そうだとすれば、あの異常な動きにも説明がつく。


 「……」


 胸の奥で、何かが繋がった気がした。


 自分が今やろうとしていること。


 炎の魔力を、太陽の魔力へ変換する。


 最大の問題は、魔力そのものではない。


 ――その魔力に、自分の身体が耐えられないことだ。


 ならば。


 もし、あの鎧が魔力の出力に肉体を耐えさせるためのものだったとしたら?


 「……もしかして」


 自分の心臓が大きく脈打つ。


 「……あの鎧なら、太陽の魔力を……」


 扱えるかもしれない。


 根拠なんてない。


 確信だってない。


 ただの推測だ。


 それでも――。


 今まで何をやっても見つからなかった突破口が、ようやく目の前に現れた。


 絶望しかなかった状況に、一本の光が差し込んだような感覚だった。


 「……」


 周囲を見渡す。


 猛吹雪が吹き荒れている。


 身体は限界。


 魔力も消耗している。


 アラガの魔導結界によって、このままでは遠からず凍死する。


 だからといって、太陽の魔力を無理やり作れば、自分自身の身体が耐えられずに焼き尽くされる。


 どちらを選んでも死ぬ。


 そんな状況だった。


 だが――。


 今は違う。


 ほんの僅かでも、可能性がある。


 それだけで十分だった。


 「……やってみる価値はある」


 自分は拳を握り締める。


 これで失敗すれば、本当に終わりだ。


 もう次の手はない。


 自分自身が焼け死ぬか。


 魔導結界に凍らされるか。


 そのどちらかだ。


 だったら――。


 最後に残された可能性へ、全部を賭ける。


 「……いや」


 自分は首を横に振る。


 そんな弱気な言葉じゃない。


 これは、ただの賭けじゃない。


 父が残してくれたものを、自分は今ここで受け継ごうとしている。


 「……やってやる!」


 声を張り上げる。


 身体は震えている。


 寒さのせいだけじゃない。


 怖いのだ。


 これから何が起きるのか分からない。


 失敗すれば死ぬ。


 それでも。


 自分は一歩も退かない。


 父が残してくれた、あの緋色の鎧。


 あの日、自分の目に焼き付いた父の姿。


 それが今、自分に最後の可能性を与えてくれた。


 だったら――。


 信じるしかない。


 父が遺したものを。


 あの鎧に秘められた力を。


 そして何より――。


 「……絶対に、アラガを救う」


 それだけは、何があっても変えない。


 自分一人が助かるためじゃない。


 ここまで一緒に戦ってきた仲間たちのため。


 自分を信じてくれた人たちのため。


 そして、今も目の前で苦しんでいるアラガを救うため。


 そのために――。


 自分は父から受け継いだ可能性を、命懸けで掴み取る。


 「……待ってろ、アラガ」


 吹き荒れる白銀の世界を睨みつける。


 絶望の中に見えた、ほんの僅かな光。


 それを決して手放さない。


 ――父さん。


 今度は、俺が受け継ぐ番だ。


 そして。


 必ず、この力で――アラガを救い出す。

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