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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

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第11章ー105

 「……スゥゥゥゥゥ……」


 ゆっくりと息を吸い込む。


 肺いっぱいに空気を取り込み、そして、ゆっくりと吐き出す。


 焦るな。


 今までだって、何度も危険な魔法を使ってきた。


 そのたびに、自分はどうやって魔力を制御してきた?


 ――思い出せ。


 あの時と同じだ。


 自分は頭の中に、一つのイメージを思い描く。


 体内で太陽を作る。


 それだけだ。


 実際に太陽を生み出すわけじゃない。


 あくまで、自分の魔力を太陽という形に見立て、その性質を引き出す。


 まずは全身に駆け巡っている炎の魔力を、一か所へ集める。


 腕。


 脚。


 胸。


 腹。


 頭。


 身体中を巡っている魔力を、少しずつ中心へと集約していく。


 「……」


 魔力が動く。


 自分の意思に従って、全身の炎の魔力が身体の中心へ集まり始めた。


 集める場所は――心臓。


 そこを中心として、魔力を一つに束ねる。


 そして、集めた炎の魔力を太陽へと作り変える。


 あの時と同じように。


 頭の中に、太陽を思い描く。


 灼熱の光。


 圧倒的な熱量。


 決して消えることのない巨大な光源。


 それを自分の体内に作り出す。


 「――ッ!?」


 だが。


 その瞬間だった。


 ――ドクンッ!!


 心臓が大きく跳ね上がった。


 まるで心臓そのものを内側から殴りつけられたような感覚。


 「……っ!」


 呼吸が止まる。


 嫌な予感がした。


 いや。


 予感なんて生易しいものじゃない。


 本能が告げている。


 ――マズい。


 これは、駄目だ。


 「……っ、はぁ……!」


 慌てて魔力の流れを止める。


 集めかけていた炎の魔力が霧散し、全身へと戻っていく。


 間に合った。


 もし、あのまま続けていたら――。


 「……」


 自分は直感的に理解していた。


 この身体では、太陽の魔力を受け止められない。


 ここまで、散々身体を酷使してきた。


 何度も魔法を使い。


 何度も攻撃を受け。


 身体はとっくに限界を超えている。


 そんなボロボロの状態で、体内に太陽なんてものを作ろうとしているのだ。


 耐えられるはずがない。


 仮に太陽の魔力を完成させることができたとしても、その魔力を全身へ巡らせた瞬間――。


 自分の身体は、内側から焼き尽くされる。


 「……クソッ!」


 拳を握り締める。


 覚悟は決めていた。


 死ぬかもしれない。


 それでもやる。


 そう思っていたはずだった。


 なのに。


 いざ、本当に死を実感した瞬間――身体が勝手に止まった。


 怖かった。


 死ぬことが。


 当たり前だ。


 誰だって死にたくなんかない。


 けれど。


 自分が踏みとどまった理由は、それだけじゃない。


 「……違う」


 自分は小さく呟いた。


 この死には――意味がない。


 アラガを救えない。


 ミオたちの心配を無駄にする。


 先生たちと積み上げてきたものも、全部無駄になる。


 ただ自分一人が死んで、それで終わり。


 そんなのは――。


 「……無駄死にじゃねえか」


 口にした瞬間、胸の奥が痛んだ。


 自分が命を懸けるのは、こんな時じゃない。


 誰かを救うため。


 誰かのために、自分の命を使う。


 それが、自分の考える「勇者」なんじゃないのか。


 少なくとも、自分はそうありたい。


 だからこそ。


 何の意味もなく死ぬわけにはいかない。


 「……でも」


 そこで、自分は周囲を見渡す。


 猛吹雪。


 視界を埋め尽くす白銀の世界。


 身体の芯まで凍りつきそうな冷気が、容赦なく体温を奪っていく。


 身体はもう限界だ。


 このまま何もしなければ、いずれ魔導結界の冷気に耐えられなくなる。


 凍死する。


 つまり――。


 「俺は今……どっちに転んでも死ぬってことかよ」


 自分の炎に焼かれて死ぬか。


 アラガの氷に凍らされて死ぬか。


 どちらを選んでも、待っているのは死。


 まさに究極の二択だった。


 「……クソッ」


 歯を食いしばる。


 どうする。


 どうすればいい。


 太陽の魔力をものにするには、どうすればいい?


 完成させるだけじゃ駄目だ。


 今の自分の身体では、その熱量に耐えられない。


 だったら――。


 太陽そのものを小さくする?


 いや、それでは必要な魔力を引き出せない。


 魔力の出力を抑える?


 それでは制限魔法を突破できない可能性がある。


 魔力を一気に変換するのではなく、少しずつ変換する?


 だが、それでは間に合わない。


 思考がぐるぐると回る。


 時間だけが過ぎていく。


 身体の震えが大きくなっていく。


 寒い。


 痛い。


 苦しい。


 それでも、必死に考える。


 ――何かあるはずだ。


 自分が見落としている何かが。


 太陽の魔力を、自分の身体でも扱える方法。


 今までの経験。


 今まで教わったこと。


 過去に使った魔法。


 何でもいい。


 使えるものは全部使え。


 そうやって必死に可能性を探していた、その時だった。


 「……そうだ」


 ふと。


 一つの記憶が脳裏を過った。


 それは、ずっと昔の記憶。


 まだ自分が幼かった頃。


 魔法のことも、勇者のことも、何も分かっていなかった頃。


 そんな自分の目に焼き付いた――。


 「……お父さん」


 思わず、その名前が口から零れた。


 脳裏に浮かんだのは、幼い頃に見た父の姿。


 戦場で身に纏っていた――緋色の鎧。

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