第11章ー102
「……待てよ」
吹雪の向こうにいるアラガを見つめながら、ふと疑問が浮かんだ。
アラガも、魔力制限を受けているはずだ。
俺と同じように、試合前にライラック先生から魔法を掛けられている。
あの人がいい加減な仕事をするとは思えない。
なら――。
「アラガも魔法が掛かってるはずなのに、なんで魔力量が上がったんだ?」
それが、どうしても引っ掛かった。
魔眼を開放する前のアラガだって、十分すぎるほどの魔力を持っていた。
それでも、今とは明らかに違う。
右目を開いた瞬間。
まるで何かの枷が外れたかのように、アラガから感じられる魔力が一気に膨れ上がった。
その結果として発動したのが――魔導結界。
しかも、ただの魔法じゃない。
あれだけの魔力を消費する魔導結界を、今の状態で維持している。
「……おかしい」
俺は眉を寄せる。
魔力制限が掛かっているなら、本来はこんなことできるはずがない。
もちろん、魔法の中にはレイジ先輩のように、時間を掛けて徐々に威力を高めていくタイプもある。
最初は弱くても、魔力を少しずつ蓄積したり、出力を上昇させたりすれば、最終的にはかなりの威力になる。
でも――。
「魔導結界は、そういうタイプじゃない」
発動した瞬間から、あの結界は異常なほどの力を見せていた。
徐々に魔力が増えたわけじゃない。
アラガが魔眼を開いた、その瞬間からだ。
「……もしかして」
俺は目を見開く。
「魔眼を開眼させたことで、制限そのものが解除されたのか?」
その可能性が頭を過った。
魔眼の効果。
それによって、ライラック先生が掛けた魔力制限の魔法を強制的に解除してしまった。
もしそうなら、今のアラガがあれだけの魔力を使えることにも説明がつく。
「いや……待て」
だが、すぐに別の可能性が浮かんだ。
完全に解除されたわけじゃないとしたら?
制限そのものが変化したとしたら?
「……制限の上限値が上がった?」
俺は頭の中で考えを整理する。
例えば――。
俺達の本来の魔力出力が最大で百あるとする。
そこに魔力制限を掛けることで、五十までしか魔力を出せなくする。
普通なら、それで終わりだ。
最大出力が百。
制限後は五十。
実に分かりやすい。
だが、もしアラガの場合。
魔眼を開いたことで、そもそもの最大出力そのものが変化したとしたら?
「最大出力が……百から二百に増えた」
そうなると話が変わる。
制限魔法が「本来の最大出力の半分まで」という仕組みなら――。
最大出力が二百になったことで、制限を受けた状態でも百まで出せることになる。
つまり。
魔力制限そのものは解除されていない。
ただ、制限を掛ける基準となる「最大出力」が変化したことで、結果的に以前より多くの魔力を使えるようになった。
「……あり得なくはない」
魔眼という特殊な能力が、魔力そのものに干渉しているのなら十分に考えられる。
だが――。
「……いや」
何かが引っ掛かる。
そこで、別の記憶が蘇った。
「……マヒロ」
そうだ。
マヒロだ。
確か、あいつも魔力制限の対象だった。
だが――。
魔剣・魔妖。
あの武器だけは、魔力制限を掛けられないという理由で使用禁止になった。
「なんでだ?」
俺は考える。
魔妖の特性。
それは、複数の属性を扱えること。
単純に炎を使う。
水を使う。
雷を使う。
そんな話じゃない。
一度納刀するという特殊な手順を挟むことで、複数の属性を組み合わせ、さらに強力な魔法を生み出すことができる。
つまり――。
「魔力の切り替え……」
ぽつりと呟く。
魔妖を使うことで、マヒロは魔力そのものの性質を変化させる。
炎から水へ。
水から雷へ。
あるいは、それらを複合させる。
「魔力の変化……」
その言葉を口にした瞬間。
頭の中で、何かが繋がった。
アラガ。
魔眼。
魔力制限。
マヒロ。
魔妖。
そして――魔力の性質。
「……」
俺は、しばらく何も言えなかった。
さっきまでバラバラだった情報が、一本の線になっていく。
魔力制限は、単純に「魔力を減らす」だけの魔法じゃない。
もしそうなら、魔力の性質が変わった時にどうなる?
魔力そのものが別の状態へ変化した場合――。
「……制限魔法は、何を基準に制限してる?」
俺は思わず自分の手を見る。
俺の魔力。
今の俺が使える魔法。
そして、アラガの魔力。
魔眼を開いたことで変化した、あの異常な魔力。
もし俺の考えていることが正しいなら。
「……そうか」
声が震えた。
胸の奥で、何かが弾ける。




