第11章ー101
「はあああああ!!」
俺はありったけの力を込めて、身体の奥に意識を集中させた。
目指すのは、試合前に掛けられた魔力制限の解除。
こんなものさえなければ、もう少しまともに戦える。
そう考えた俺は――。
「せいやあああああっ!!」
まるでバトル漫画の主人公みたいに、気合いだけで魔力制限をぶち破ろうと試みた。
身体の内側から魔力を一気に膨れ上がらせる。
限界まで力を込める。
もっとだ。
もっと魔力を出せ。
この程度の制限、根性で――。
「はあ……はあ……はあ……」
――解除できるわけがなかった。
「……くそ」
当然だ。
そんな都合のいい話があるわけがない。
そして――。
「うぉわっ!?」
直後、足元から嫌な音が響いた。
「ゴゴゴゴゴ……!」
「ちょっ、待て待て待て!」
慌てて横へ飛び退く。
次の瞬間、俺がいた場所を突き破って巨大な氷柱が突き出した。
「危ねぇっ!」
間一髪で回避する。
着地した俺は、その場にへたり込みそうになる身体を何とか支えた。
「はあ……はあ……」
……何やってんだ、俺。
無駄に気合いを入れただけじゃねぇか。
魔力制限はびくともしない。
その上、氷柱に潰されかける。
「……世界観はファンタジーなのになんでこういうところはしっかりしてんだよ」
思わず愚痴が漏れる。
気合いで何とかなるなら、苦労なんてしない。
……いや、冗談を言っている場合じゃない。
「参ったな……」
改めて現状を整理する。
ライラック先生から聞いた話では、この魔力制限が自然に解除されるまでには三十分ほど掛かるらしい。
普通の試合なら、それだけあれば十分だ。
三十分もあれば、どちらかが勝敗を決めているだろう。
だが――。
「今は、三十分なんて待ってられねぇ」
俺は周囲を見渡す。
猛吹雪。
無数の氷柱。
そして、俺達を閉じ込めている魔導結界。
この中にいるだけでも、身体はどんどん冷えていく。
それに、俺自身もすでに限界へ近づいている。
あと三十分。
そんな時間を、この状態で耐えられる保証なんてどこにもない。
それどころか――。
「……二十分も持つか?」
魔力制限が強制的に解除されるまで、残り二十分近く。
そこまで耐えられるかどうかすら怪しい。
しかも、魔力制限を解除する方法がまったくないわけじゃない。
術者本人が解除することもできるらしい。
ただし――。
「直接触れなきゃ解除できない、か……」
ライラック先生から聞いた話を思い出す。
つまり、俺に制限を掛けた本人がここまで来て、直接触れて解除してくれればいい。
……まあ。
「無理だよな」
今の俺は魔導結界の中に閉じ込められている。
外から誰かが入ってくること自体、難しいはずだ。
それに、あれから数分が経過しているのに、外部から何の反応もない。
助けが来る気配すらない。
「……っていうか」
俺は耳を澄ます。
「何も聞こえねぇ」
観客の声も。
実況の声も。
教師達の声も。
何一つ聞こえてこない。
魔導結界の影響なのか、外の音が完全に遮断されている。
「……外、どうなってんだ?」
分からない。
もしかしたら、外ではすでに何かが起きているのかもしれない。
先生達が対応しているのかもしれない。
あるいは――。
「……誰も助けに来られない可能性だってある」
そう考えた瞬間。
胸の奥が、ズシンと重くなった。
魔力は制限されている。
身体は限界。
外部からの援護も期待できない。
時間が経てば経つほど、動ける場所は氷柱によって狭くなっていく。
その上、アラガは未だにあの魔導結界を維持している。
「……くっそ」
思わず拳を握る。
「これ……どうすりゃいいんだよ」
さっきまであった勢いが、少しずつ削られていく。
できることがない。
いや――。
正確には、できることはある。
アラガへ近づく。
そして、気絶させる。
それだけだ。
だが、そのための手段がない。
「……」
身体が重い。
呼吸が苦しい。
視界も悪い。
冷気が全身を蝕んでいる。
このまま時間だけが過ぎていけば、俺は何もできないまま倒れる。
そう思った瞬間――。
「……駄目だ」
俺は頭を振った。
「いや、待て。何考えてんだ、俺」
弱気になってどうする。
「……ああ、もう!」
俺は両手で頭を抱えた。
「駄目だ駄目だ駄目だ!! 冷静になれ、俺!!」
頭をブンブン振る。
吹雪のせいで身体だけじゃなく、精神まで冷やされているような気がする。
だから、こんな弱気になっているんだ。
そうに違いない。
……いや。
単純に、状況が絶望的すぎるだけかもしれない。
それでも――。
「まだ、諦めるわけにはいかないだろ」
アラガは苦しんでいる。
あれだけの魔力を無理やり引き出して。
あの右目を開いたまま。
俺を攻撃し続けている。
そんな奴を、このまま放っておけるか。
「……この程度で弱気になってたら、勇者なんて――」
そこまで呟いたところで、俺は言葉を止めた。
「……ん?」
何かが引っ掛かった。
今、俺は何を言おうとした?
「……待てよ」
さっきまで散らばっていた考えが、一つに繋がり始める。




