第11章ー98
「……ふぅ」
大きく息を吐き、乱れた呼吸を整える。
そして、改めて戦闘態勢を取った。
目の前にいるのはアラガ。
今まで隠していた右目を開放し、魔導結界まで展開した化け物じみた奴。
正直、まともに相手をしたくない。
あの魔力。
あの目。
そして、この異常なほど強力な結界。
どれを取っても、今まで戦ってきた相手とは格が違う。
それでも――。
「……どうにかして、止めないとな」
自分には、アラガを苦しみから解放する方法がある。
いや。
正確には、根本的な解決方法じゃない。
今のこいつを、一時的にでも止める方法だ。
恐らく――アラガの魔眼は、眼を閉じている状態なら力を抑えられる。
そう考えた理由は単純だ。
こいつは普段、右目を眼帯で隠している。
もし魔眼を自由に扱えるなら、わざわざそんなものを着けている理由がない。
少なくとも、何らかの制御が必要なのは間違いないだろう。
もちろん、あの眼帯自体が特殊な魔道具という可能性もある。
魔力を抑制したり、魔眼の力を封じたりするための道具なのかもしれない。
その可能性は捨てきれない。
だが――。
「それだけで、あんな力を完全に抑え込めるとは思えないんだよな……」
魔道具に詳しいわけじゃない。
それでも、今アラガから放たれている魔力を見れば分かる。
これほどの力を、たった一つの道具だけで完全に封じ込める。
そんなことが簡単にできるとは思えない。
ある程度の抑制はできたとしても、根本的にはアラガ自身が魔眼を使わないことで力を抑えていたんじゃないか。
なら――。
眼を閉じさせればいい。
少なくとも、今よりは状況をマシにできるはずだ。
他にも何か条件がある可能性はある。
魔力の消耗。
精神状態。
あるいは、魔眼そのものに別の制約があるのかもしれない。
でも、今の俺にはそんなことを一から調べている時間なんてない。
考えられる中では、この方法が一番しっくりくる。
そして、もしそれが正しいのなら――。
「……やることは一つだ」
アラガを、ぶっ倒す。
気絶させればいい。
意識を失えば、少なくとも今のように自分の意思で魔眼を使い続けることはできなくなる。
魔導結界だって、術者本人が意識を失えば解除される可能性が高い。
何より、今のアラガは明らかに苦しんでいる。
このまま戦い続ければ、俺が殺されるか、あいつ自身が限界を迎えるか。
どっちに転んでもロクな結末にはならない。
だったら――。
俺が力づくで止めるしかない。
「よし……!」
拳を握り締める。
覚悟を決め、足に力を込めた。
「いくぞ、アラ――」
その瞬間だった。
「……ん?」
ゴゴゴゴゴ……。
地面の奥底から、低い音が響いた。
「……は?」
足元が揺れる。
ほんの僅かだった。
けれど、戦闘中の俺には十分すぎるほど伝わった。
「うがっ!?」
直後。
地面が、大きく隆起した。
「ッ!?」
本能的に危険を察知する。
考えるより先に身体が動いた。
俺は地面を蹴り、その場から大きく後方へ跳んだ。
その――直後。
「ズドォォォンッ!!」
俺が立っていた場所を突き破るようにして、巨大な氷の柱が突き出した。




