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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

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第11章ー97

 「サダメ……」


 試合を終えた拙者は、フィー殿と二人で観客席に座り、サダメの試合を見届けていた。


 ギリスケ殿は何やら別の用事があるとのことで、今は別行動でござる。


 ……まあ、それはさておき。


 「これは……大変なことになったでござるな」


 目の前で繰り広げられている光景に、拙者は思わず目を細める。


 試合開始直後から優勢に立っていたアラガ殿。


 しかし、サダメが一撃を入れたことで、流れが変わった。


 このままいけば、サダメが逆転する。


 そう思った矢先だった。


 アラガ殿が――眼帯を外した。


 その瞬間。


 「……ッ」


 空気が変わった。


 まるで別人になったかのように、アラガ殿から感じられる魔力が一気に膨れ上がる。


 量だけではない。


 質まで変わっている。


 あれほどの魔力を今まで隠していたという事実に、拙者も驚きを隠せなかった。


 そして――。


 「魔導結界……」


 アラガ殿が右目を晒した直後。


 試合場を覆うように、巨大な結界が展開された。


 見覚えがある。


 忘れるはずもない。


 迷宮で、拙者達が遭遇したあの男が使っていた結界。


 あの時、拙者達を死の淵まで追い詰めた、忌まわしき魔法。


 まさか――。


 アラガ殿が、それを使うとは。


 『ウソ……? なんで、あいつが……?』


 隣に座るフィー殿の声が震える。


 『アレって、魔物しか使えないんじゃなかったの……?』


 「……」


 拙者は何も答えられなかった。


 いや、正確には――答える必要がなかった。


 目の前に、その答えがある。


 魔導結界。


 それは魔物の中でも、とりわけ強大な力を持つ者しか扱えぬとされる代物。


 少なくとも、十死怪に匹敵するほどの力を持たねば扱えぬと聞いている。


 そんな魔法を。


 学生であるアラガ殿が発動した。


 正直に言えば、驚いている。


 これほどの力を持つ者が、今まで何食わぬ顔で学園生活を送っていたことにも驚きを禁じ得ない。


 しかし――。


 『ねえ!? これ、マズイんじゃないの?!』


 フィー殿が、今度は焦ったように声を上げる。


 『このままだと……サダメ君が死んじゃうよ?!』


 「……」


 その言葉に、拙者は再び試合場へ視線を向けた。


 確かに、危険だ。


 魔導結界がどれほど恐ろしい魔法なのか、拙者達は身をもって知っている。


 あの時。


 一歩間違えていれば、拙者達は全員殺されていた。


 あの場では、吸血鬼族ヴァンパイアのブラムという男の気まぐれがあり、さらに皆が力を合わせたことで、辛うじて危機を乗り越えることができた。


 だが、それはあくまで幸運が重なった結果。


 本来ならば、魔導結界を発動された時点で命の保証などない。


 ましてや今、結界の中にいるのはサダメ一人。


 助けに入ることもできない状況で、あれほどの結界と一対一で戦っている。


 普通に考えれば――。


 「……確かに、危険でござるな」


 拙者は静かに呟いた。


 『じゃあ、やっぱり……!』


 「だが」


 フィー殿の言葉を遮る。


 そして、拙者は胸を張った。


 「大丈夫でござるよ、フィー殿」


 『え……?』


 「サダメなら、きっとなんとかするでござる」


 自分でも驚くほど、迷いのない言葉だった。


 根拠などない。


 ……いや。


 ある。


 拙者は、サダメが今までどれだけの困難を乗り越えてきたのかを知っている。


 常識では考えられぬような状況に追い込まれても。


 何度倒れそうになっても。


 それでも、最後には必ず立ち上がってきた。


 だから――。


 今回も同じでござる。


 「サダメは、あれほどの結界を見て怯えて逃げ出すような男ではないでござるよ」


 『でも……』


 「心配する気持ちは分かるでござる」


 フィー殿の顔を見る。


 その表情には、明らかな不安が浮かんでいた。


 無理もない。


 あの魔導結界を知っているからこそ、サダメの身を案じているのだ。


 ならば、拙者がすべきことは一つ。


 「信じるのでござる」


 『……信じる?』


 「そうでござる」


 拙者は再び試合場を見る。


 あの結界の向こう側に、サダメがいる。


 そして――。


 「なにせ、サダメは拙者と決勝で戦うのでござるからな」


 思わず口元が緩む。


 そう。


 こんなところで負けられては困る。


 ここまで来たのだ。


 拙者は決勝で、サダメと全力で戦うつもりでいる。


 それなのに――。


 「魔導結界程度に負けてもらっては困るのでござるよ」


 『……マヒロちゃん』


 「だから、心配はいらぬ」


 胸を張って言い切る。


 「サダメは必ず戻ってくる。そして拙者と決勝で戦う」


 それが拙者の確信だった。


 願いではない。


 希望でもない。


 今まで共に戦い、幾度となく背中を預けてきたからこそ抱ける――絶対的な信頼。


 だから、拙者は心配などせぬ。


 ……いや。


 正確には、心配している。


 サダメが傷つけば、当然胸が痛む。


 もし本当に命の危険が迫っているのなら、今すぐ助けに行きたい。


 それでも――。


 「拙者は、サダメを信じるでござる」


 静かに、しかし力強く呟く。


 フィー殿も、それ以上は何も言わなかった。


 ただ二人で、魔導結界に閉ざされた試合場を見つめる。


 そして拙者は――。


 「待っているでござるよ、サダメ」


 決勝の舞台で。


 拙者と刃を交える、その時まで。


 「必ず、戻ってくるでござる」


 そう信じて、拙者は一歩も動かず、試合の行方を見守り続けた。

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