第11章ー94
「どうすんっすか?」
「……」
私の隣で煙草を吹かしながらソファーに身体を預けているコールスタッシュ先生が、気だるげな声で問い掛けてくる。
まるで「自分には関係ありませんけど」とでも言いたげな、ふてぶてしい態度。
まあ……実際、今回の件に関して言えば、彼の言う通りなのかもしれない。
この事態をどう収拾するか決めるのは、学園の責任者である私の役目なのだから。
「言っときますけど、外から破るには結構骨折れまっせ」
煙草の煙を吐き出しながら、コールスタッシュ先生が続ける。
「内側なら術者本人を倒せりゃあ済む話ですけど、外側からだとそう簡単にはいかねえ。あれ、見た目以上に厄介っすよ」
「……分かっているよ」
「ならいいんすけど」
彼の言葉は軽い。
だが、その内容は決して軽くない。
むしろ、私も同じことを考えていた。
魔導結界。
その厄介なところは、内側よりも外側にある。
もちろん、結界の内部が安全という意味ではない。
むしろ内部は、術者によって制御された魔力が渦巻く危険な領域だ。
だが、それ以上に問題なのが――結界そのものの強度。
通常の結界魔法とは比較にならない。
曲がりなりにも「結界」と呼ばれる魔法である以上、外部からの侵入や干渉を防ぐ性質を持っている。
それが魔導結界という規格外の魔法によって、異常なまでに強化されているのだ。
外側から破壊しようとすれば、相当な魔力を叩き込まなければならない。
下手をすれば、結界を破壊するどころか、こちらの攻撃が弾かれて周囲に被害を撒き散らす可能性すらある。
そして、もう一つ。
私は結界の周囲へと視線を向けた。
魔導結界から漏れ出している、濃密な魔力。
あれは内部だけに留まっているわけではない。
結界の外側にも、僅かながら漏れ出している。
量そのものは決して多くない。
だが、あの魔力は普通ではない。
大なり小なり、周囲にいる人間の身体へ影響を及ぼしてしまう可能性がある。
もし長時間浴び続ければ――。
最悪の場合、命に関わる。
「……本当に、最悪の結界だな」
思わず、そんな言葉が漏れる。
戦闘のために生み出された結界でありながら、その影響は戦っている二人だけに留まらない。
このまま放置すれば、会場にいる観客や教員達にまで被害が及ぶ可能性がある。
当然、一刻も早く対応しなければならない。
だが――。
『理事長、いかがいたしますか?』
耳元の無線機からライラック先生の声が響く。
『先に観客の避難誘導を行いますか?』
「……」
私は黙り込んだ。
避難。
確かに、それが最も安全な選択に思える。
会場にいる人間を外へ出してしまえば、魔導結界から距離を取らせることができる。
少なくとも、ここに留まらせるよりは安全だ。
だからこそ――。
私は、あえて首を横に振った。
「いや。避難誘導は止めておこう」




