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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

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第11章ー93

 「魔導結界だと?!」


 「それに、あの眼……。まさか、ウチの生徒に人魔がいたなんて……」


 「……」


 魔闘祭マジル・フェスティバル準決勝第二試合。


 アラガ君とサダメ君の戦いを特別席から観戦していた私の耳に、教員達の動揺した声が次々と飛び込んでくる。


 無理もない。


 今、目の前で起きていることは、私達教師ですら想定していなかった異常事態なのだから。


 アラガ君の右目に宿る魔眼。


 そして、それを持つ者だけがなり得る特殊な種族――人魔。


 彼が人魔である可能性については、私自身、以前から薄々感じていた。


 人間のものとは明らかに異なる、桁外れの魔力量。


 それだけではない。


 彼の周囲に漂う魔力には、ただ強いという言葉だけでは片付けられない異質さがあった。


 他者を無意識に萎縮させるほどの魔の圧力。


 対峙するだけで、本能が警告を発しているかのような感覚。


 あれほどの魔力を持つ人間が、この世界に存在するなどとは到底思えない。


 だからこそ、人魔ではないかと疑っていた。


 だが――。


 「まさか、魔導結界まで……」


 思わず、そう呟いてしまう。


 魔導結界。


 それは、現代の人類が到達し得なかった領域の魔法だ。


 通常の結界魔法とは根本から異なり、莫大な魔力と高度な魔法制御能力を必要とする。


 理論そのものは知られている。


 研究もされている。


 だが、人類には実現できなかった。


 少なくとも、私が知る限りでは。


 アラガ君が普通ではないことは分かっていた。


 しかし、まさかここまでとは。


 彼の潜在能力は、一体どれほどのものなのだろう。


 考えれば考えるほど、恐ろしくなる。


 そして何より気になるのは――。


 なぜ、今なのか。


 なぜ、この場で魔導結界を使ったのか。


 人魔であることを隠していたのなら、こんな大勢の人間が見ている場所で正体を晒すなど、彼にとっては大きなリスクのはずだ。


 それでも使った。


 それだけ、サダメ君に負けたくなかったということなのだろうか。


 ……いや。


 それだけではない気がする。


 試合が始まってからの二人を思い返す。


 アラガ君は、明らかにサダメ君へ強い敵意を向けていた。


 単なる勝利への執念とは違う。


 まるで、何か別の理由があるかのような――。


 「……君は、一体何を抱えているんだ?」


 問い掛けても、当然答えが返ってくるはずもない。


 私がそんなことを考え込んでいると――。


 『……ちょう、エンドレッド理事長。聞こえますか?』


 「ッ!?」


 不意に耳元から声が響き、思考を中断させられる。


 「……ああ、聞こえてるよ。ライラック先生」


 片耳に装着していた無線機。


 緊急事態が発生した場合、責任者である私と審判を務めるライラック先生が即座に連絡を取れるよう、事前に用意していたものだ。


 私は無線機のスイッチを押し、返事を返す。


 『すみません。私が判断を見誤りました。あの時に試合を止めておけば……こんなことには……』


 声からでも分かる。


 ライラック先生は、自分の判断を悔やんでいる。


 「……こればかりは仕方がないよ」


 私は努めて穏やかな声を返した。


 「大会のルール上、本人に戦闘継続の意思があり、身動きが取れないほどの状態でもなければ、重傷を負っていない限り試合を続行することは認められている。君がその時点で問題ないと判断したのであれば、私は君を責めるつもりはないよ」


 『し、しかし……!』


 「ライラック先生」


 食い下がろうとする彼の言葉を、静かに遮る。


 「君が公平に試合を見ていたことは、私も知っている」


 ライラック先生は、教員の中でも特に規律を重んじる人物だ。


 だからこそ、今回も審判を任せた。


 生徒同士の戦いだからといって感情に流されず、勝敗を公平に判断できる。


 そんな彼だからこそ、私は信頼している。


 だから、今さら彼を責めるつもりなどなかった。


 ……だが。


 「とはいえ……」


 私は再び、試合場へ視線を戻す。


 そこにあるのは、もはや学生同士の魔闘祭とは呼べない光景だった。


 魔導結界。


 人魔。


 そして、あの異常なまでの魔力。


 何より――。


 その結界の中で対峙する、アラガ君とサダメ君。


 「……まずいな」


 思わず、声が漏れる。


 ルール上は問題ない。


 ライラック先生の判断にも落ち度はない。


 だが、そんなものとは別のところで、私の理事長としての勘が警鐘を鳴らしている。


 これは、ただの試合ではない。


 このまま二人を戦わせ続ければ――何か、とてつもなく大きなものが壊れる。


 そんな予感がしてならなかった。


 「さて……どうするべきか」

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