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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

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第11章ー92

 「なん……だと……」


 痛みに耐えながら俺の言葉を聞いていたアラガが、目を見開いた。


 よほど予想外だったのだろう。


 無理もない。


 自分を殺そうとしている相手に、「助ける」なんて言われても、普通なら意味が分からないはずだ。


 「その魔眼……身体への負担が相当掛かってるんだろ?」


 俺は、吹雪の向こうにいるアラガを真っ直ぐ見据える。


 「敵対してるとはいえ、そんなに苦しんでる相手を放っておけるほど、俺は薄情じゃねえよ」


 「ッ!?」


 アラガの表情が僅かに歪む。


 俺からすれば、本当にそれだけだった。


 こいつが俺を恨んでいようが。


 憎んでいようが。


 今この瞬間、俺を殺そうとしていようが。


 苦しんでいる人間を目の前にして、見て見ぬ振りをする。


 そんなことはしたくなかった。


 ふと、昔のことを思い出す。


 勇者が言っていた。


 ――勇者なんてのは、徳のない仕事だ。


 当時は、その言葉の意味がよく分からなかった。


 人を救う。


 魔物を倒す。


 困っている人を助ける。


 それのどこが「徳のない仕事」なんだ、と。


 けれど今なら、少しだけ分かる気がする。


 勇者だって人間だ。


 助けた相手から感謝されるとは限らない。


 命懸けで守った相手に裏切られることだってあるかもしれない。


 自分が正しいと思ってしたことを、誰かに否定されることだってある。


 理不尽な目に遭うことも。


 傷つけられることも。


 きっと、数え切れないほどあったんだろう。


 だからこそ。


 俺が勇者になることを勧めなかったのかもしれない。


 それでも――。


 俺は、その道を選んだ。


 何度考えても、答えは変わらなかった。


 どれだけ辛い目に遭っても。


 どれだけ恨まれても。


 自分が手を伸ばすことで、一人でも多くの人を救えるのなら。


 俺は、その手を伸ばしたい。


 それが――。


 俺の思い描く「勇者」だからだ。


 「……ふざけんな……!」


 低い声が聞こえた。


 「俺を……救う……だと?」


 アラガが肩を震わせる。


 「寝言は……はあ……寝てから……言いやがれ……!」


 荒い呼吸の合間から、吐き捨てるような言葉が飛んでくる。


 「はあ……はあ……」


 苦しそうなのに。


 それでも、アラガは俺を睨み続けていた。


 その目に宿っているのは怒り。


 そして――侮蔑。


 「てめえは……俺より弱い」


 「……」


 「そんな奴が……俺を救うだと……?」


 アラガの声が震える。


 怒りなのか。


 悔しさなのか。


 それとも別の感情なのか。


 俺には分からない。


 「善人気取りも……大概にしとけや!!」


 耳が痛くなるほどの罵声が吹雪の中を駆け抜ける。


 それでも俺は何も言わなかった。


 言い返すことはいくらでもできる。


 「誰が善人だ」と言うことも。


 「お前を救うくらい俺にはできる」と言い返すことも。


 だけど、今のアラガに何を言ったところで無駄だ。


 こいつは今、自分自身と戦っている。


 俺に向けている怒りの奥で、別の何かを必死に押さえ込んでいる。


 だから俺は、ただ黙って受け止めた。


 そして――。


 「やっぱお前は……目障りだ……!」


 アラガが顔を上げる。


 その魔眼が、真っ直ぐ俺を捉えた。


 「決めた……」


 一瞬。


 周囲の吹雪が止まったように感じた。


 いや。


 違う。


 止まったんじゃない。


 さらに強くなるための、ほんの一瞬の静寂だった。


 「ここでお前を……確実に……殺す!!」


 「……!」


 次の瞬間。


 ――ゴオオオオオオオオッ!!


 吹雪が爆発的に勢いを増した。


 冷気が一気に押し寄せる。


 「まだ……強くなるのかよ」


 思わず呟く。


 これ以上、まだ威力を上げられるのか。


 魔眼を開いてからずっと苦しんでいる。


 身体だって限界に近いはずだ。


 それなのに。


 それでもこいつは、俺を殺すために力を振り絞っている。


 ……本気なんだ。


 本気で、俺を殺そうとしている。


 だったら。


 俺も覚悟を決めるしかない。


 「……ああ」


 拳を握る。


 全身へ炎の魔力を巡らせる。


 身体の内側が焼けるように熱くなる。


 それでも構わない。


 「掛かって来いよ」


 アラガを真っ直ぐ見据える。


 「俺は絶対に死なねえ」


 一歩、踏み出す。


 吹雪が身体を叩きつける。


 それでも足は止めない。


 「お前を助けるまでな!」


 「……ッ!」


 アラガの魔眼が大きく見開かれる。


 俺は拳を構える。


 ここから先は、ただの勝負じゃない。


 俺はこいつを倒す。


 だけど、殺さない。


 こいつが何を抱えているのか。


 なぜ、ここまで自分を追い込んでいるのか。


 全部聞き出す。


 そして――。


 必ず、ここから連れ出す。


 それが俺の譲れないものだ。


 「行くぞ、アラガ」


 拳に力を込める。


 「俺は、この拳で――お前を救ってみせる!!」

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