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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

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第11章ー91

 「はあ……はあ……はあ……」


 荒い呼吸を繰り返しながら、俺は周囲を見渡した。


 ……逃げ場がない。


 気が付けば、俺は銀白色の氷壁に完全に閉じ込められていた。


 ほんの数秒。


 本当に、数秒足らずの出来事だった。


 それなのに、もうリングの中は別世界へと変貌している。


 「……くそ」


 吐き出した息が白く染まる。


 いや。


 白く染まるなんて生易しいものじゃない。


 身体の芯まで一気に冷やされるような、凄まじい冷気が全身を襲っていた。


 吹雪が絶え間なく吹き荒れているせいで、視界もまともに確保できない。


 先ほどの【白銀の零域(シルバーズ・ゼリア)】とは明らかに違う。


 あれも十分すぎるほど寒かったが、これは比較にならない。


 まるで極寒の大地そのものを、このリングの中へ押し込めたような寒さだ。


 「……まずいな」


 身体が震える。


 おそらく、結界の中はすでに氷点下まで下がっている。


 このまま何もしなければ、あっという間に身体の自由を奪われる。


 そして最後には――凍死する。


 「はあ……はあ……」


 やむを得ない。


 俺は再び、自分の体内へ炎の魔力を流し込んだ。


 「……ぐっ」


 全身が熱を帯びる。


 先ほど、もう二度と使うものかと思っていた。


 それほどまでに身体への負担が大きかった。


 炎の魔力で身体そのものを満たす。


 そんな無茶を、またやらなければならない。


 ……まったく。


 使うまいと思った直後に使う羽目になるとはな。


 ただ、不幸中の幸いだった。


 先ほどの戦いで異常なほど上昇していた体温は、零界凍土の冷気によってかなり下がっている。


 おかげで、前ほど身体に熱が籠もることはなさそうだった。


 とはいえ、負担がなくなったわけじゃない。


 炎の魔力で身体を無理やり温めている以上、身体へのダメージは確実に蓄積していく。


 「はあ……はあ……はあ……」


 呼吸を整えながら、俺は吹雪の向こうへ視線を向けた。


 そして――。


 「……うっ!? うぅぅ……」


 「……アラガ?」


 かすかな声が聞こえた。


 吹雪の向こうに、人影が見える。


 アラガだ。


 うっすらとしか姿は確認できないが、それでも間違えるはずがない。


 俺は目を細めた。


 「……」


 やっぱりだ。


 魔眼を開いてから、ずっと苦しんでいる。


 荒い呼吸。


 苦悶に歪んだ顔。


 時折漏れる、獣のような呻き声。


 魔導結界を発動させた本人とは思えないほど、その姿は苦しそうだった。


 「……まさか」


 ふと、ある考えが頭を過る。


 あの魔眼。


 もしかして――。


 魔眼を開いたことそのものが、こいつの身体に大きな負担を掛けているんじゃないか?


 だから今まで眼帯で隠していた。


 力を封じるために。


 自分自身を守るために。


 もしそうだとしたら――。


 「アラガ……」


 俺が呼び掛けた、その時だった。


 「はあ……はあ……はあ……レ、レールステン……」


 「ッ!?」


 アラガが、俺の名前を呼んだ。


 今まで苦痛の声しか上げていなかった奴が、確かに俺を見ている。


 「お、お前……だけは……絶対に……」


 一言一言を絞り出すように。


 「俺が……倒……す……」


 「……」


 思わず黙り込む。


 ……こいつ。


 こんな状態になってまで、まだ俺を倒そうとしているのか。


 魔眼を開放して。


 身体を苦しめて。


 魔導結界まで使って。


 それでもなお、俺を倒すことだけを考えている。


 普通なら、理解できない。


 どうしてそこまでして俺に拘るのか。


 何がこいつを、そこまで駆り立てているのか。


 俺には、まだ分からない。


 けれど――。


 「……そうか」


 不思議と、少しだけ納得していた。


 ここまでして俺を倒そうとする以上、こいつの中にはきっと何かがある。


 俺には理解できない。


 こいつにしか分からない。


 それでも、絶対に譲れない何かが。


 だから、こいつはここまで戦っている。


 なら――。


 俺にだって、譲れないものがある。


 「……だったら」


 拳を握る。


 身体は痛い。


 魔力も限界に近い。


 この結界から逃げ出すことだって簡単じゃない。


 それでも。


 俺はアラガから目を逸らさなかった。


 「俺は、お前を絶対に助けてみせる」

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