第11章ー84
「……がっ!?」
灼熱の衝撃とともに身体がリングへ叩きつけられる。
肺の中の空気が一気に押し出され、血が喉を焼くように込み上げた。
「……っ、ごほっ!」
口から鮮血が飛び散る。
背中には砕けた地面が食い込み、腹部には炎を押し込まれたような熱が残っていた。
息を吸うだけで激痛が走る。
全身が悲鳴を上げている。
「……はあ……はあ……」
霞む視界の先。
肩で荒く息をつきながら立つレールステンの姿が映る。
その姿を見た瞬間、俺は痛みとは別の衝撃に襲われた。
……俺が。
俺が、こいつの攻撃をまともに受けただと。
『ア―――っと!! ここでレールステン選手の渾身の一撃がアラガ選手へ炸裂!! 腹部へ直撃です!! これはとんでもないダメージだぁぁぁぁ!!!』
実況の興奮した声が会場中へ響き渡る。
割れんばかりの歓声。
さっきまで気にも留めていなかったはずなのに、今は一つ一つが耳障りだった。
『アラガ選手、立ち上がれそうにありません! これは決着も見えてきたでしょうか!?』
「……ッ」
決着?
誰が。
誰に。
俺が負ける?
ふざけるな。
俺はまだ終わっていない。
『おっと、審判がリングへ入りました。このまま試合終了となるのでしょうか』
「……」
声が遠い。
歓声も実況も、まるで水の中から聞いているように霞んでいく。
耳に残るのは、自分の荒い呼吸だけ。
俺は。
まだ。
負けていない。
こんなところで終われるか。
まだ何一つ成し遂げていない。
誰にも認められていない。
こんな敗北を受け入れたら、今まで積み上げてきたものが全部無駄になる。
そんな終わりだけは認められない。
『……聞こえるかい? 動ける?』
ぼんやりと審判の声が届く。
視界へ入った審判が身を屈め、俺の顔を覗き込んでいた。
続行できるか確認しているのだろう。
当たり前だ。
立てる。
立ってみせる。
俺はまだ――。
「……」
その時だった。
視界の端でレールステンと目が合う。
奴は何も言わず、ただ俺を見つめていた。
その目を見た瞬間、胸の奥で何かが音を立てて切れた。
……なんだ、その目は。
憐れんでいるのか。
俺を?
お前が?
俺より弱かったはずのお前が?
そんな資格が、お前にあるとでもいうのか。
ふざけるな。
ふざけるな……!
『……動けなさそうだね。それではアラガ選手、戦闘不能と判――』
「負けてねえぞッ!!!!」
怒号が勝手に喉から迸った。
その瞬間、全身を襲っていた激痛など意識から吹き飛ぶ。
足に力を込める。
砕けたリングへ手を突き立てる。
軋む骨も、裂ける筋肉も関係ない。
俺は歯を食いしばり、そのまま身体を無理やり持ち上げた。
「ッ……はああああ!」
ふらつきながらも大きく息を吐き、両足で立つ。
場内が一瞬静まり返る。
その沈黙すら心地いい。
そうだ。
俺はまだ立っている。
まだ戦える。
まだ終わっていない。
ここからだ。
ここから、本当の力を見せてやる。
レールステン。
お前が俺を本気にさせたことを、後悔させてやる。




