第11章ー83
ここはリングのど真ん中だ。
場外際ならまだ分かる。
だが、中央で足を踏み外すなどあり得ない。
なのに、俺の身体は確かに重心を失い、後方へ傾いていく。
「ッ!?」
倒れ込みながら咄嗟に背後へ目を向ける。
そこでようやく異変の正体を知った。
リングには大小さまざまな穴が無数に穿たれていた。
爆発で抉られたような跡。
その一つ一つは浅い。
だが、いくつも連なり、まるで足場だけを狙って削り取ったような形になっている。
俺が踏み外したのは、その穴の縁だった。
「……そういうことか」
すべてが繋がった。
あの火球だ。
あいつは最初から俺を狙ってなどいなかった。
狙っていたのは――リングそのもの。
火球を避けさせるたび、少しずつ地面を削る。
目立たない程度に。
気付かれない程度に。
肉弾戦へ持ち込み続けたのも、俺の意識を正面へ固定するため。
背後を確認する余裕すら与えなかった。
それだけじゃない。
俺へ魔法を撃たせなかった理由も同じだ。
もし俺が広範囲へ氷を張れば、抉られた穴は塞がってしまう。
だから接近戦を強要し続けた。
火球で牽制し。
距離を詰め。
殴り合いへ持ち込み。
その裏で少しずつ罠を完成させていた。
全部。
全部、この一瞬のためだったのか。
「……まさか」
最初から。
いや。
炎で身体を強化した時には、もうここまで考えていたというのか。
俺は完全に誘導されていた。
「……ああ」
目の前から静かな声が聞こえる。
「これを待ってた」
「ッ!?」
顔を上げた瞬間、レールステンの姿が視界いっぱいに映った。
身体を捻り、拳を大きく振りかぶっている。
その拳は今までとは違う。
炎を纏っているだけじゃない。
赤黒い光を帯び、魔力が異常なほど圧縮されている。
空気すら熱で歪み、拳の周囲だけ陽炎が揺らめいていた。
瞬時に理解する。
まずい。
これはただ殴るだけの一撃じゃない。
俺を転ばせることが目的じゃなかった。
避けられない状況を作り、その上で最大火力を叩き込む。
そのためだけに、ここまで積み重ねてきた。
自爆覚悟の脱出。
炎による身体強化。
火球による牽制。
接近戦の繰り返し。
リングへの爆破。
すべて。
すべてが、この一撃へ繋がっていた。
「【火球・――」
拳へ炎が集束する。
熱量が一気に膨れ上がり、肌を焼く。
逃げ場はない。
体勢も崩れている。
迎撃も、防御も、間に合わない。
俺は、この瞬間だけ完全に負けた。
「――炎衝拳】ォォォォォッ!!!」
轟ッ!!
灼熱を纏った拳が、俺の身体へ真正面から突き刺さる。
凄まじい衝撃が全身を貫いた。
肋骨が軋み、肺から強制的に空気が吐き出される。
視界が白く弾け、次の瞬間には天地が反転していた。
身体が地面へ叩きつけられる。
リングが大きく砕け、爆音と土煙が闘技場全体を飲み込んだ。




