第11章ー82
『な、なんとなんとなんと―――!!! レールステン選手、先程まで一方的に追い詰められていたにもかかわらず、自爆覚悟で窮地を脱出! さらに己の肉体を炎で強化し、アラガ選手へ怒涛の猛攻を仕掛けています!! これは本当に、勝負の行方が分からなくなってきたぁぁぁぁ!!!』
『ええ。アラガ選手も序盤ほどの余裕は見られません。レールステン選手が、このまま押し切る可能性も十分ありますね』
「……」
レールステンがあの戦法へ切り替えてから、およそ一分。
未だ決着はついていない。
実況席はすっかり向こうへ肩入れし始めている。
そんなことはどうでもいい。
観客が誰を応援しようが興味はない。
だが――。
**俺に余裕がない?**
その一言だけは癪に障った。
ふざけるな。
魔力量も、魔法の精度も、戦闘経験も。
何一つとして俺が負けている要素はない。
こんな無茶苦茶な戦い方をしている奴に押されるはずがない。
……そう。
押されてなど、いない。
それなのに。
未だ奴を倒せていないという事実だけが、じわじわと胸を苛立たせる。
何度も拳をかわし、反撃を繰り出す。
だが、決定打にならない。
最初はぎこちなかった奴の動きが、時間が経つごとに洗練されていく。
こちらの間合いにも、攻撃の癖にも慣れ始めている。
いや、それだけじゃない。
「……違う」
反応速度そのものが速くなっている。
いや、反応だけじゃない。
踏み込みも。
切り返しも。
拳の振りも。
身体能力そのものが底上げされている。
そこでようやく気付く。
「部分魔力強化か……!」
あいつ、炎属性へ変換した魔力を維持したまま、身体強化まで重ねていやがる。
道理で動きが変わるわけだ。
しかも、ただの身体強化じゃない。
炎属性の魔力が筋肉の収縮をさらに加速させているのか、通常時以上の瞬発力まで引き出している。
理屈としては成立する。
……だからこそ腹が立つ。
命を削ることまで利用して強くなるなど、正気の戦法じゃない。
「【火球】!」
「くっ!」
さらに厄介なのが、この無詠唱魔法だ。
ほんの一瞬でも距離が空けば、即座に炎弾が飛んでくる。
牽制。
足止め。
接近の布石。
使い方に無駄がない。
そのせいでこちらは魔法を撃つ暇すら与えられない。
仮に撃てたとしても、発動速度では向こうに分がある。
魔力変換を終えている利点を、ここまで徹底して使いこなすとは。
……気に食わない。
戦況は有利なまま。
その認識は変わらない。
なのに。
どうしてこうも思い通りにならない。
時間が経てば勝手に倒れるはずだった。
魔力も体力も、とっくに限界を迎えているはずだった。
それなのに。
あいつはまだ動く。
まだ拳を振る。
まだ俺へ向かってくる。
「……うっざてぇな!!!」
ついに堪忍袋の緒が切れた。
もういい。
多少の被弾など構わない。
殴られようが焼かれようが知るか。
次で終わらせる。
次の一撃で、あいつを沈める。
俺は拳ではなく、魔法で決着をつけることを選んだ。
奴が踏み込んできた瞬間、一歩だけ退く。
拳を誘い込む。
俺へ届いたその腕を掴み、至近距離から最大火力の氷魔法を叩き込む。
多少の反動なら部分魔力強化で耐えられる。
これで終わりだ。
「はあああっ!!」
来た。
予想通り一直線。
今だ――。
そう思って後ろへ一歩退いた、その瞬間。
「……なっ?」
足裏の感触が消えた。
踏み込むはずだった地面がない。
重心が一気に崩れ、身体が大きく傾く。
馬鹿な。
何が起きた。
俺は何を踏んだ――?




