第11章ー81
「はあああっ!!」
雄叫びを上げながら、レールステンが一直線に突っ込んでくる。
全身から立ち昇る熱気で空気が揺らぎ、まるで身体そのものが燃えているようだった。
そんな無茶な真似をした程度で、俺との差が埋まるとでも思ったか。
「思い上がんな!!」
俺は左手を地面へ叩きつける。
瞬間、氷の魔力が地面を這い、分厚い氷壁が一気に競り上がった。
真正面からぶつかる必要はない。
今の奴は、自分の身体を焼きながら戦っている。
ならば時間を稼ぐだけでいい。
攻撃をいなし続ければ、いずれ勝手に限界を迎える。
焦る必要はどこにも――。
「【火球】!!」
「ッ!?」
壁の向こうから放たれた炎弾が、一直線に迫る。
次の瞬間。
轟音と共に氷壁が粉々に砕け散った。
「……なに?」
砕けた氷片が宙を舞い、冷気が周囲へ吹き荒れる。
思わず目を見開く。
今のは無詠唱だった。
それなのに、詠唱して放っていた時より威力も速度も明らかに上がっている。
そんな馬鹿な。
無詠唱は発動速度こそ優れるが、威力では詠唱に劣る。
それが魔法の常識だ。
なのに、今の一撃はその常識を覆していた。
一体、何が変わった。
「……そういうことか」
氷片の向こうに見えるレールステンの姿を見て、答えに辿り着く。
奴は今、全身を炎属性の魔力で満たしている。
つまり、魔法を放つための魔力変換がすでに完了している状態だ。
通常なら、魔法を撃つ瞬間に魔力を炎へ変換し、術式を構築して放出する。
だが今の奴には、その工程がほとんど存在しない。
術式を組んだ瞬間には、炎の魔力がすでに完成している。
だから初動が速い。
放たれた瞬間から最高速度へ乗り、初速そのものが跳ね上がる。
初速が増せば、そのまま運動エネルギーも増大する。
結果として、威力まで底上げされるというわけか。
なるほど。
理屈は通っている。
命を削って得た、一時的な爆発力。
「うおおおおっ!!」
「ちっ!」
考えがまとまった頃には、レールステンが砕け散った氷壁を蹴り越え、目の前まで迫っていた。
氷片を足場にするとは。
ここまで距離を詰められれば、もう壁は意味を成さない。
「上等だ!」
俺も拳を構え、真正面から迎え撃つ。
多少面倒にはなった。
だが、それだけだ。
今の奴は力を引き換えに、自ら死へ近付いている。
無理を続ければ続けるほど身体は焼かれ、動きは鈍り、いずれ立っていることすらできなくなる。
長引けば長引くほど不利なのは、あいつの方だ。
だから俺は攻め急がない。
奴の拳だけを見て、必要最低限の動きでかわす。
焦るな。
付き合う必要もない。
凌ぎ切れば勝ちだ。
それだけでいい。
そして何より――。
レールステンの癖も間合いも、俺はもう見切っている。
多少速くなろうが、多少威力が増そうが、本質は変わらない。
この程度で俺を超えられるほど、積み重ねてきた時間は軽くない。
負ける理由が見当たらない。
だからこそ、ここで終わらせる。
「掛かって来い、レールステン!!」
俺は拳へ氷の魔力を纏わせ、真正面から迫る男を静かに迎え撃った。




