第11章ー80
「ああ。お前が手から冷気を出しているのを見て、ふと思いついたんだ」
「……」
やはりそうか。
俺の戦い方を見て、自分にも応用できると踏んだらしい。
相変わらず、とんでもない発想をする男だ。
だが――。
「その状態で戦い続ける気か?」
問い掛けると、レールステンは肩を竦めるように笑った。
理解していないわけではないのだろう。
それでも選んだ。
だからこそ、余計に理解できなかった。
奴のやっていることは、理屈だけで言えば間違ってはいない。
俺が手から冷気を放っているように、炎を身体へ巡らせて肉体能力を高める。
発想としては単純だ。
だが、その理屈には決して無視できない代償がある。
魔力とは、本来は無属性のまま体内を循環している。
魔法を使う時だけ、それを火や氷、風といった各属性へ変換し、術式として放出する。
だからこそ必要最低限の変換で済ませるのが基本だ。
身体強化や部分魔力強化のような基礎魔法が扱いやすいのも、無属性のまま使用できるからに他ならない。
だが、俺は違う。
戦闘のほぼすべてを氷魔法で組み立てている以上、魔力を常に氷へ変換する必要がある。
それはつまり、自らの身体を冷気で満たし続けるということ。
当然、長時間続ければ体温は奪われる。
身体は冷え切り、限界を超えれば自分自身が凍死する危険すらある。
だから俺は必要な分だけ変換し、必要がなくなればすぐに戻す。
魔力変換とは、それほど繊細な技術だ。
そして。
その理屈は炎にも当てはまる。
レールステンが今やっていることは、全身を炎属性の魔力で満たし続けているのと同じ。
体内は高熱にさらされ、血液も臓器も焼かれていく。
皮膚は赤く染まり、身体中から蒸気が立ち昇っている。
見ているだけでわかる。
あの身体は、すでに悲鳴を上げている。
俺の氷は効きづらくなるだろう。
だが、その代償として奴自身が死へ近付く。
戦えば戦うほど体温は上がり続け、いずれ限界を迎える。
まるで、自分の命を燃料にして動いているようなものだ。
……そこまでして勝ちたいのか。
いや。
そこまでしてでも、俺を倒したいのか。
理解できない。
勝ち目が薄いことくらい、奴自身が一番わかっているはずだ。
それでも命を削る。
そこまでして前へ出る理由が、俺にはわからない。
「……本当に呆れた男だな、お前は」
思わずため息が漏れる。
先ほどの自爆同然の戦法もそうだ。
今度は自らを焼きながら戦うという。
どこまで自滅したがる。
普通の人間なら、とっくに諦めている。
それなのに、こいつだけは止まらない。
馬鹿なのか。
それとも、狂っているのか。
……いや。
そのどちらでもないのかもしれない。
そう考えた瞬間、自分でも理由のわからない苛立ちが胸を掻き乱した。
覚悟だけで俺を超えられると思うな。
命を賭ければ勝てるほど、この差は浅くない。
そんな幻想ごと叩き潰してやる。
俺は静かに拳を握り締める。
拳の周囲へ氷の魔力が集まり、空気が軋むような音を立てて凍り始める。
これで終わらせる。
今度こそ、二度と立ち上がれないほど徹底的に。




