第11章ー79
「いくぞ、アラガ!!」
「……」
満身創痍のレールステンが、なおも俺を真っ直ぐ見据えて叫ぶ。
顔や脚には、自ら浴びた炎による火傷が刻まれている。喉には俺の氷が食い込み、凍傷も負っているはずだ。まともに声を出せる状態ですらない。
普通なら立ち上がることさえ困難だ。
それなのに――。
まるで何事もなかったかのように構えを取り、再び俺へ向かってくる。
……なんなんだ、こいつは。
意地か。強がりか。それとも痛覚が壊れているのか。
理解できない。
勝ち目がないことくらい、とっくにわかっているはずだ。実力差も、嫌というほど思い知っただろう。
それでも前へ出る。
意味がわからねぇ。
「……くそが」
思わず舌打ち混じりに悪態が漏れる。
レールステンは一直線にこちらへ駆けてくる。
また何か企んでいるのか。
だが、何を仕掛けようと無駄だ。
俺とこいつの間には、明白に埋めようのない実力差がある。
小細工一つで覆せるほど甘い差じゃない。
今度こそ、その現実を叩き込んで終わらせる。
「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前に現れし標的に猛る一投を撃ちかけん――【火球】!!」
詠唱が響く。
放たれた火球は一直線。
……またそれか。
威力は低い。
詠唱を挟んだところで、この程度の魔法なら脅威にはならない。
防壁を張る価値すらない。
どうせ本命は接近戦。
火球で意識を逸らし、その隙に殴りかかってくる算段だろう。
なら迎え撃つだけだ。
凍らせるのは、完全に戦闘不能へ追い込んだ後でいい。
さっきのように自爆覚悟で暴れられる方が厄介だからな。
「はああっ!」
火球を最小限の動きでかわし、そのまま迎撃態勢へ移る。
予想通り、レールステンは真正面から飛び込んできた。
拳を振りかぶる。
……結局は殴り合いか。
芸のない奴だ。
それとも、まだ何か隠し玉でも――。
そう考えながら、放たれた拳を紙一重でかわす。
その瞬間だった。
「ッ!?」
頬を掠めた拳から、熱風のようなものが吹きつけた。
避けたはずなのに妙に熱い。
拳そのものが、異常な熱を帯びているのか。
俺は咄嗟に距離を取り、レールステンを見据える。
そこでようやく違和感の正体に気付いた。
奴の肌は赤く染まり、全身から陽炎のような熱気が立ち上っている。
身体の内側から無理やり熱を放出しているような状態。
なぜだか見覚えがある。
苦痛を押し殺し、ただ俺だけを見据えている。
「……まさか、俺の真似事か?」
思わず口から漏れた言葉に、レールステンは不敵に口元を吊り上げた。




