第11章ー76
『サダメ選手、果敢に攻め続けるも、アラガ選手にことごとく返されてしまう――!! 果たして、この鉄壁の男を攻略する術はあるのでしょうか!?』
『しかし、サダメ選手は一回戦でも土壇場で勝機を掴み取りました。まだ何か隠し玉を持っているかもしれません。最後まで目が離せませんね』
実況席は相変わらず熱を帯びている。
観客席からも大きな歓声が響いてくる。
……なのに。
今の俺には、その声が遠かった。
耳に届いているはずなのに、まるで水の中から聞いているようにぼやけている。
意識のほとんどを、目の前の男へ向けていたからだ。
「……」
どうする。
魔法じゃ通じない。
接近戦も駄目。
策を弄しても、その先を読まれる。
魔力量は向こうが圧倒的。
魔力の質も、技術も、経験も、全部向こうが上。
そんな相手を、一体どう攻略すればいい?
せめて。
ほんの一瞬でもいい。
隙さえできれば、その一瞬に全てを懸けられる。
俺の勝機は、そこしかない。
問題は――。
「どうやって、その隙を作る……?」
考えろ。
焦るな。
必ず何かある。
そう自分に言い聞かせながら、俺はじりじりと後ろへ下がっていく。
その時だった。
「つっ――!」
ゾクリ、と背筋を貫く冷気。
「冷たっ……!」
背中に強烈な冷たさと痛みが走り、思わず身体を跳ねさせる。
しまった。
考え事に意識を奪われるあまり、背後を完全に忘れていた。
俺の背中は、アラガが作り出した氷壁にぶつかっていたのだ。
思っていた以上に冷たい。
服越しだというのに、まるで氷を直接押し当てられたような感覚が背中を走る。
「……っ!」
その冷たさに顔をしかめた瞬間。
俺の頭の中で、一つの違和感が繋がった。
――そうか。
腹だ。
さっきアラガに殴られた腹部が、今も焼けるように痛む。
いや。
焼けるようでいて、どこか芯から冷えるような妙な痛み。
あれは単なる打撃じゃなかった。
俺は視線をアラガへ向ける。
「……」
その左拳。
よく見ると、薄く白い冷気がまとわりついている。
「……なるほど」
ようやく分かった。
アラガは拳に氷の魔力をまとわせていたんだ。
だから、あの痛み。
だから、あの熱にも似た違和感。
打撃と同時に氷属性の魔力を流し込まれ、身体の内部を急激に冷やされた。
凍傷に近い症状だったのか。
「肉体強化だけじゃ、防ぎ切れない……!」
いくら【部分魔力強化】で身体を強化しても、衝撃には強くなれても温度までは防げない。
だからあんなにも効いたんだ。
「……」
少しだけ見えた。
アラガの戦い方が。
だが。
「呑気に考え事をしている場合か?」
「――ッ!?」
低い声。
顔を上げた時には、もう遅かった。
アラガが踏み込んでくる。
「しまっ……!」
反射的に拳を振るう。
だが。
「甘い」
ひらり、と避けられる。
次の瞬間。
ガシッ――!
「ぐっ!?」
首を掴まれた。
そのまま一気に身体を押し込まれる。
ドンッ!!
背中が再び氷壁へ叩きつけられた。
「がっ……!」
肺から空気が押し出される。
逃げようとする。
だが、動けない。
アラガの腕力が、首を掴む手が、それを許さない。
背後は氷壁。
左右も塞がれている。
完全に逃げ場を失った。
「終わりだ、レールステン」
静かな宣告だった。
感情のない声。
それが余計に恐ろしい。
「……ッ!」
首を掴むアラガの手から、冷気が流れ込んでくる。
いや。
冷気じゃない。
氷の魔力だ。
肌を刺すような冷たさが首から全身へ広がっていく。
呼吸をするたび、肺まで凍りついていくような錯覚。
指先の感覚が少しずつ薄れていく。
「……まずい」
このままじゃ、本当に凍る。
身体ごと氷漬けにされる。




