第11章ー73
反応する暇なんてなかった。
ガシッ!!
次の瞬間。
アラガの左手が、俺の右腕を掴んだ。
そしてそのまま。
「ふんっ!」
「ルッ!?」
身体が浮いた。
いや。
浮いたなんて生易しいものじゃない。
俺の身体が――回転した。
アラガが俺の腕を掴んだまま、まるで俺自身を武器にするかのように振り回している。
ぐるん!
ぐるん!
視界が猛烈な勢いで回転する。
地面。
天井。
観客席。
そして――。
俺がさっき放った火球が、アラガの背後で膨れ上がっているのが見えた。
次の瞬間。
ドォォォォォォォンッ!!
爆発。
俺が放った火球が、アラガの背後で盛大に暴発した。
熱風が吹き荒れる。
煙がさらに濃くなる。
そして。
俺は理解した。
――まさか。
これを狙ってたのか!?
俺が煙に紛れて接近することも。
右側へ回り込むことも。
そして。
自分自身の火球を至近距離で放とうとしていたことも。
全部。
「……くそっ!」
「ふんっ!」
「ぐあっ!?」
次の瞬間。
俺の身体が――投げ飛ばされた。
ドガァァァァァンッ!!
「――――ッ!!」
背中に衝撃が走った。
「がっ……!?」
背中が、氷壁に叩きつけられる。
肺から空気が一気に吐き出された。
「ぐっ……!」
咄嗟に全身へ魔力を流し込む。
身体全体を強化。
衝撃を少しでも軽減する。
――だが。
間に合わなかった。
ほぼゼロ距離からの投擲。
強化が間に合ったのは、ぶつかるほんの直前だった。
「っ……!」
背中がジンジンする。
痛え……!
呼吸するたびに背中が痛む。
「……目くらましして接近戦か」
「……!」
煙の向こう。
アラガの声が聞こえた。
「見え透いた作戦だな」
「くっ……!」
やっぱり。
完全に読まれていた。
俺が何をしようとしていたのか。
どうやって接近するつもりだったのか。
全部。
「……」
俺はアラガを睨みつける。
まさか。
「お前……」
俺の背筋に、嫌な予感が走る。
もしかして。
こいつ――。
俺が接近してくるのを、最初から待っていたのか?
「……あえて、俺を近づかせたのか?」
アラガは答えない。
ただ、こちらを見ている。
その無表情が。
今は妙に不気味だった。
……くそ。
俺の作戦を見破った。
それだけじゃない。
俺がどう動くかを予測して。
俺が自分から近づいてくるように仕向けた。
そして。
俺が近づいた瞬間。
カウンター。
「……」
こいつ。
俺が思っていた以上に――。
「どうした?」
アラガの声が響く。
「もう終わり――」
「【ゆらめく炎の光球】!!」
アラガの言葉を最後まで聞くつもりはなかった。
俺は即座に次の魔法を放つ。
――フレア・ライト。
目潰し用の光魔法。
さっきの火球とは違う。
こいつは。
攻撃するための魔法じゃない。
相手の視界を奪うための魔法だ。
しかも。
今は至近距離。
アラガとの距離は、ほとんどない。
これなら――。
いくらあいつでも。
「……これで!」
視界を焼き尽くすほどの光が、アラガを包み込む。
「……!」
いける!
この距離なら、避けることなんて――。
「なっ!?」
その瞬間。
俺の目の前で。
何かが動いた。
「……は?」
アラガの姿が――消えた?
いや。
違う。
目の前にあるのは。
氷。
「……氷壁?」
違う。
さっきまでの巨大な壁じゃない。
もっと薄い。
もっと細い。
それでも。
確実に俺とアラガの間を遮るように。
縦長の氷の板が一枚。
いつの間にか、アラガの目の前に立てられていた。




